改訂新版 世界大百科事典 「アルカエオキアツス」の意味・わかりやすい解説
アルカエオキアツス
Archaeocyathus
アーケオシアタス類または古杯類(こはいるい)とも呼ばれる。古生代のカンブリア紀前期から中期初頭にのみ知られる特異な海生の着生動物である。分類上これまで種々異なる部類に扱われてきていたが,最近は海綿動物門に近い位置をしめる独立した動物門Archaeocyathaとされ,動物界の中で絶滅した唯一の門と考えられている。軟体部は化石として保存されないため,未解決の問題が少なくない。骨格は炭酸カルシウムからなる。外形はコップ状を呈しており,多くの場合,単体として産出するが,塊状あるいは樹枝状の群体を形成するものもある。単体の大きさは,一般に直径10~25mm,高さ80~150mmである。骨格の基本構造は,ほとんどの場合,外壁と内壁の二重の壁からなり,両壁の間の空間は間腔または中間層と呼ばれ,多くの隔壁によって区切られている。内壁より内側の中心部には中央腔と呼ばれる空間がある。また壁および隔壁には多くの小孔が発達している。このほか水平方向の構造として,床板や泡沫組織がみられ,海綿動物や腔腸動物に近いことを示している。これらの類似性と広い分布から判断して古杯類の幼生期は浮遊性であったものと推定される。南米大陸を除いて,南極大陸を含むすべての大陸のカンブリア系から報告されており,特に北米大陸,シベリア地方から多く知られている。日本からは産出していない。古杯類は示準化石としてカンブリア系の分帯に役立っているだけでなく,示相化石としても重要で,石灰藻類とともに化石礁を形成し,温暖な浅海に生息していたと考えられる。光合成をする藻類との共存からみて,最適生息深度は20~30mと推定される。その化石礁としての生態系は,種々の動植物群が参与している現在のサンゴ礁に比べると,きわめて単純であった。古杯動物門は現在3綱8目98科252属に分類されているが,古杯類と明確に判断できない所属不明の属種も多く報告されている。
執筆者:森 啓
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報