示相化石(読み)しそうかせき(英語表記)facies fossil

精選版 日本国語大辞典 「示相化石」の意味・読み・例文・類語

しそう‐かせき シサウクヮセキ【示相化石】

〘名〙 生存していた過去環境を知る手がかりとなる化石生活環境の強く制約されている生物の化石で、造礁珊瑚有孔虫など。

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デジタル大辞泉 「示相化石」の意味・読み・例文・類語

しそう‐かせき〔シサウクワセキ〕【示相化石】

地層堆積たいせきした当時の環境を知る手がかりとなる化石。有孔虫・造礁珊瑚ぞうしょうさんごなど。

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改訂新版 世界大百科事典 「示相化石」の意味・わかりやすい解説

示相化石 (しそうかせき)
facies fossil

特定堆積環境を示す化石。一般に古生物の種ないし属についていうが,古動物群についていうこともある。適応力のすぐれた,すなわち耐性toleranceの広い種は不利な条件下でも生息できるのに対し,狭い種はごく限られた環境にしか生息できない。種々の環境条件に対して耐えうる範囲の大きさにより,生態の広性・狭性が区別される。示相化石はすべて限られた環境に適応した古生物の現地性の化石であるために,それを産出した地層の堆積環境を特定したり,あるいは環境条件を推定する有力な手がかりとなる。たとえば熱帯から亜熱帯にかけて現生する造礁サンゴは,冬季の表層水温が18℃を下回ることのない温暖な海域で,しかも水深がほぼ50m以浅という透明度の高い浅海部に限って生息し,サンゴ礁を形成している。このような狭環境性stenokousのために,サンゴ礁の化石が産出することによって,これらを含む地層が堆積した古環境が温暖な浅海であり,そのような海域がどのように広がっていたかが推定される。このように狭環境性の古生物ほど,その化石により古環境を細かく限定することができる。しかしその反面,示相化石に対しては示準化石のような役割を期待できない。たとえば仮に浅海であった地域が海進により深海化し,その後,海退により再び浅海にもどった場合を想定してみると,浅海にすむ古動物群は海面の上昇につれて内陸方向に移動し,下降によってまた元の場所にもどってくる。その結果,浅海の示相化石はその地域に累重する一連の地層中で上部と下部に分かれて産出するだけでなく,他の地域ではこれらと異なった時代に堆積した地層中から産出することになる。このように示相化石は,生態が時代とともに変化しない古生物の化石であって,時空的な変化にかかわりなく特定の古環境の指示者としての意義を持っている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「示相化石」の意味・わかりやすい解説

示相化石
しそうかせき

過去の環境を具体的に知るうえで役だつ化石。地質時代の地球表層の環境は、地層を構成する堆積(たいせき)物の物理的・化学的特徴によって推定される。しかし、堆積盆地の古地理、古気候、水塊の深度や温度あるいは古海流などは地層の性質だけからは判断できないことが多く、示相化石の助けを必要とする。個々の生物種はその生理的、行動的な適応範囲が限定されるため、一定の環境にしか生存できない。同様なことは古生物にもいえるため、環境に対する適応の範囲が限られる類は示相化石として重視される。たとえば、造礁性のサンゴは藻類と共生するため、年間平均水温が17℃以上で太陽光の到達できる澄んだ浅海に分布する。したがって、礁性サンゴを含む地層は、このような環境であったといえる。示相化石としては、生息場で堆積した現地性化石が望ましい。しかし、花粉や胞子など遠くまで運ばれるものでも、定量的に分析すれば古気候や古植生などの推定に役だつ。

[棚部一成]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「示相化石」の意味・わかりやすい解説

示相化石
しそうかせき
facies fossil

それを含む地層の堆積環境をよく指示するような化石。一般的にいえば,適応範囲の狭い生物は,特定の環境条件に限定されるのでよい示相化石になる。たとえば,造礁サンゴは水温 18℃以上,25℃前後が最適で,透明度高く,日光の届く 50m以浅のところに生活する。したがって造礁サンゴがよく発達した地層は,水温 25℃前後,陸源堆積物や陸水の影響が少い,透明度が高い,普通の海水中に生じた地層であったと推定される。またタニシの化石があれば,死後に別の環境のところに移動させられたのでなければ,産出層の堆積環境が淡水下のものであることを示す。

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百科事典マイペディア 「示相化石」の意味・わかりやすい解説

示相化石【しそうかせき】

その化石を含む地層の堆積環境などを示す化石。たとえばサンゴ化石をたくさん発見することにより,その地層が堆積したのは暖海であったろうと推定する。示相化石の条件としては,環境に対する適応範囲が狭く,生息地域で化石化すること(原地性化石)など。死後,水の運動などで運ばれた後堆積したもの(異地性化石)では注意が必要。
→関連項目化石示準化石

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世界大百科事典(旧版)内の示相化石の言及

【化石】より

…生痕化石はその多くが現地性であるため,古環境を知るのに重視されている。このような古環境を指示する化石を示相化石という。これと反対に,遺骸が水や大気によって生活地外へ運搬され堆積したものを異地性ないしは他生的化石という。…

※「示相化石」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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