日本大百科全書(ニッポニカ) 「炭酸カルシウム」の意味・わかりやすい解説
炭酸カルシウム
たんさんかるしうむ
calcium carbonate
炭酸のカルシウム塩。工業部門では炭カルともいう。天然には方解石、大理石、石灰石、あられ石、白亜などの鉱石として産出する。工業的には、石灰岩を乾式粉砕し、ふるい分けまたは風簸(ふうひ)(空気中での自然沈降速度の違いを利用する粉体分別操作)によって微粉を集め製品とする(重質炭カル)。石灰乳に二酸化炭素を吹き込んで生じた沈殿を乾燥、粉砕することによっても製造される(沈降炭酸カルシウムまたは軽質炭カル)。貝類を湿式粉砕したものも利用される(胡粉(ごふん))。一般に白色固体または無色の結晶。結晶には二つの変態がある。熱すると次の反応式に従って解離する。これは吸熱反応である。
CaCO3CaO+CO2-42.0kcal
898℃で解離圧は1気圧に達する。この反応は二酸化炭素と酸化カルシウムの工業的製造に用いられる。酸と反応して二酸化炭素を発生する。純粋な水にはほとんど溶けないが、二酸化炭素を含んだ水には炭酸水素カルシウムとなって溶ける。
CaCO3+CO2+H2OCa(HCO3)2
二酸化炭素を含んだ天然水が石灰岩を溶解した結果生じた空洞が鍾乳洞(しょうにゅうどう)である。その中で温度の上昇や分圧の低下によって二酸化炭素の溶存量が減少すると平衡は左に偏り、炭酸カルシウムが沈積する。このようにして生成したのが鍾乳石や石筍(せきじゅん)である。
石灰石はポルトランドセメント、酸化カルシウムなどの原料、大理石は建築材料として用いられる。重質炭カルは顔料、紙やゴムの充填(じゅうてん)剤に用いられ、沈降炭酸カルシウムは顔料、塗料、製紙、歯みがき粉に、胡粉も白色顔料や水性塗料に用いられる。
[鳥居泰男]
農業への利用
土壌の酸性を中和することを目的に使用される。純度の高いものは薬品用、工業用に適するので、比較的不純物の多いものが農業用として用いられている。通常アルカリ分53~60%を含み、粒度の粗いものほど土壌酸性矯正速度が遅い。炭酸カルシウムは生石灰(せいせっかい)、消石灰よりも塩基性は弱いが、大気中での安定性がもっとも大きく、貯蔵中に変質することがない。カーボンブラックで黒く着色したものは融雪を促進する効果があるため、北海道などの寒冷地で早春に用いられる。なお酸化マグネシウム(苦土)を含むものは苦土炭カルといい、マグネシウムが欠乏している酸性土壌に効果がある。
[小山雄生]
炭酸カルシウム(データノート)
たんさんかるしうむでーたのーと
炭酸カルシウム
CaCO3
式量 100.1
融点 1339℃(102.5気圧)
沸点 ―
比重 方解石型,2.711(測定温度25℃)
あられ石型,2.93
結晶系 方解石型,六方,あられ石型,斜方
屈折率 (n) 六方,1.6585(通常光に対して)
斜方,1.530(c軸に平行)
溶解度 六方,1.4mg/100g(水25℃)
斜方,1.5mg/100g(水25℃)