アーノルド試薬(読み)あーのるどしやく(英語表記)Arnold's reagent

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アーノルド試薬」の意味・わかりやすい解説

アーノルド試薬
あーのるどしやく
Arnold's reagent

4,4'-ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルメタンエタノールクロロホルム酢酸などに溶かした溶液のことをいう。この溶液を濾紙(ろし)にしみ込ませて乾燥した試験紙は酸性で、塩素臭素によって深青色を、オゾンによって紫色を呈し、過酸化水素には感じないので、これらの物質の検出試薬となる。これは構造Ⅰの物質が、酸化によって構造Ⅱへ変わるとき、構造Ⅱがもつ発色団により青色になるのである。呈色の波長領域は発色団の構造によって決まる。本例ではキノイド型構造をとることによる。すなわち構造Ⅱの右側のようにベンゼン環の二重結合が一つ減って環の上下に二重結合が生ずる構造になるからである(参照)。

 構造Ⅱの酸化型は構造Ⅲとの間の共鳴により安定化する。共鳴は非常に早い時間で変化する。通常1秒間に約1013回の振動をするといわれており、量子力学的共鳴といわれ、このような構造を極限構造ともいう。これは分子中のπ(パイ)電子が移動する現象として説明されている。酸化力の強い
(1)金(Ⅲ)
  Au3++3e-Au
   E°=1.52V
(2)バナジウム(Ⅴ)
  V2O5+6H++2e-2VO2++3H2O
   E°=0.958V
(3)過マンガン酸イオン
  MnO4-+8H++5e-Mn2++4H2O
   E°=1.51V
(4)過ヨウ素酸イオン
  H5IO6(aq)+H++2e-IO3-+3H2O
   E°=1.603V
などに対する鋭敏な検出試薬としても用いられている。

[成澤芳男]

『日本化学会編『化学便覧 基礎編』改訂4版(1993・丸善)』


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