日本大百科全書(ニッポニカ)「濾紙」の解説
濾紙
ろし
filter paper
濾過の目的に適するようにとくに留意してつくられた紙。多孔性で柔らかく、灰分が少ない。水その他各種の溶媒に強く、酸やアルカリにも耐え、無機物質を含まず、しかも1枚1枚が均一であることが要求される。そのため、普通の紙やパルプと異なり、ペクチン、ろう、油脂、タンパク質、無機質を含まず、糊(のり)やサイズ(紙の液体吸収性を抑制する添加物)などは加えられていない。
[成澤芳男]
定性濾紙と定量濾紙
定性濾紙は精製綿、精製ぼろ、晒(さらし)ケミカルパルプなどを原料とし、たとえば精製綿を使った場合は、原綿を精製してから炭酸ナトリウム溶液とともに高圧下で蒸煮する。さらに不純物を溶解除去して水洗後、精選機で不適当な繊維を除いて紙に漉(す)く。この湿繊維を冷凍して細胞を破壊し、無数の細孔をつくって水洗し、自然乾燥して濾紙とする。定量濾紙は、さらに無機質を除くために、乾燥の前に、フッ化水素酸、塩酸で処理し蒸留水で水洗したもので、なお硝酸でも処理して一部をニトロセルロースにしたものを硬質濾紙という。
一般の濾過用には定性濾紙が使われ、円形や正方形などの大小各種のものがあり、定量濾紙よりいくらか繊維の目が粗く、濾過速度も速い。定量分析用には定量濾紙ないし硬質濾紙が用いられ、円形で直径5~10センチメートル程度のものが使われる。定量濾紙は灰分が少なく、直径9センチメートル(もっともよく使われる大きさ)のもので1枚当り0.09ミリグラム程度となっている。また特殊なものとしては、ペーパークロマトグラフィー用の濾紙があり、幅2センチメートル、長さ40~50センチメートルという短冊型のものが使われるほか、ソックスレー抽出器用には円筒濾紙もある。日本と外国の濾紙の規格と性状を に示す。
[成澤芳男]
『稲垣寛監修『高機能紙の開発』普及版(2000・シーエムシー)』▽『上野景平著『分離の科学――ハイテクを支えるセパレーション・サイエンス』(講談社・ブルーバックス)』