翻訳|chromophore
芳香族化学,とくに染料の発色に関し,1876年にウィットOtto Nikolaus Witt(1853-1915)が提唱した概念。彼は有機化合物が色をもつためには,第1に,分子内に不飽和結合を含む原子団である発色団が必要で,第2に,発色団が芳香族化合物に結合した色原体chromogenにさらに助色団auxochromeが結合して深い色の染料となり繊維に染着することができるとした。染着の現象は発色とはまったく別なので切り離して考えるべきだが,ウィットの発色団および助色団の概念は色素の化学構造と色の関係を知るうえに今日でも非常に便利である。発色団の考え方は,不飽和結合をもつ原子団は,共役系を長くしたり電荷の偏りを大きくしたりするので発色の原因となるとするもので,おもなものを図1に示す。
一方,助色団は今日の概念として,おもに造塩可能な基で,非共有電子対をもつものをいい,π電子系に結合するとπ電子の偏りを容易にし色をさらに深くしたり強めたりするもので,多くの場合,電子供与性基である。その例を図2に示す。
たとえば図3-aに示すように,ベンゼンからスチルベンまでは紫外部の吸収で無色であるが,アゾベンゼンは可視部の430nmの吸収によりだいだい色となる。またニトロベンゼンに助色団が置換すると図3-bに示すように,助色団の電子供与性が大きいほど吸収極大の波長λmaxは長波長となり深色になる。
執筆者:新井 吉衞
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
化合物が色をもつために必要と考えられている原子団のこと。
1876年にドイツの化学者ウィットが発表した有機化合物の発色に関する理論では、色をもつためには物質分子中に発色団と称する原子団をもつことが必要であるとし、発色団を含む化合物を色源体chromogenと名づけた。色源体自身では色が薄く、しかも浅く、色素とはなりえないが、これに特定の基を導入すると、色は強度を増すうえに深くなり、さらに繊維に染着しやすくなって染料としての特質をもつようになるとし、このような働きをもつ基を助色団auxochromeと名づけた。この考え方は、発色団としては芳香環に結合した二重結合のある基や、助色団として極性の大きいイオン化できる基などを指示しているなど、現在の発色理論からみても合理的な点があり、これらの語が現在に至るまで用いられている。
発色団となる原子団はいずれも不飽和結合を含んでいてπ(パイ)電子をもち、π電子が弱く束縛されているので、可視光線のエネルギーを吸収して励起され、色をもつようになる。たとえば、アゾベンゼンは発色団としてアゾ基をもっていて橙(だいだい)色であるが、助色団をもっていないので、色が薄く、また染着性もなくて染料にはならない。しかしこれにパラ位にアミノ基を入れた4-アミノアゾベンゼン(p(パラ)-アミノアゾベンゼン)は、助色団が導入されたため黄色の染料となる(スダンエローRAとよばれている)。
現在では量子力学による発色理論が発展し、物質による光の選択吸収の本質が解明され、発色団とは主として紫外部を含む光を吸収する原子または原子団をいい、助色団とは系内のπ電子の働きに影響を与える原子団をいうようになった。発色団に対する助色団の効果は、深色効果を示す(深色団)こともあれば、浅色効果を示す(浅色団)こともある。
[中原勝儼]
有機化合物が可視部または紫外部に,強い吸収スペクトルをもつために不可欠な原子団.ベンゼン,ナフタレンなどの芳香族骨格に発色団として,ニトロ基(-NO2),アゾ基(-N=N-),カルボニル基()などの不飽和原子団がつくと顕著な発色がみられる場合が多く,O.N. Witt(1876年)により,そのような化合物を色原体(chromogen)と命名された.色原体そのものは,一般に無色~淡色で,かつ繊維に対する染着性にも乏しく,これが深色性と染着性を備えた真の染料となるためには,さらにヒドロキシ基,アミノ基のような第二の原子団の存在が必要であるとし,これらの原子団を助色団と称した.現在,主要な発色団としては,上記原子団のほかに,ニトロソ基,アゾメチン基,アゾキシ基,チオカルボニル基,エチレン結合などが,また助色団としては,スルファニル基,スルホン酸基,カルボキシル基,およびハロゲン原子などがあげられている.この発色団が合成染料の開発に果たした役割は非常に大きい.発色団は共役系における電荷移動構造を可能にし,助色団はエネルギーを安定化してより強く電荷移動を起こさせることが証明されており,現在でも,発色団,助色団などの用語は便利に使われている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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