ドニゼッティの代表的オペラ。正式名《ランメルモールのルチアLucia di Lammermoor》。1835年の春から夏にかけて作曲され,同年9月にナポリのサン・カルロ劇場で初演された。3幕7場。台本はW.スコットの小説《ラマームーアの花嫁》(1819)をS.カンマラーノが脚本化したもの。
ランメルモールの領主エンリコは,妹ルチアを政略的に高官アルトゥーロのもとへ嫁がせようとする。だがルチアは,兄の仇敵エドガルドと愛し合っている。実の兄によって恋人との仲を裂かれたルチアはやがて発狂して命を終え,エドガルドもまたルチアの後を追って自害するという内容をもつ。
ドニゼッティの生前,イタリアでは政情不安定な世相を反映して〈恐怖オペラ〉や〈狂乱オペラ〉が流行したが,この《ルチア》はその種のオペラの典型であり,後半の〈ルチア狂乱の場〉が見せどころとなっている。この作品は,《アンナ・ボレーナ》や《愛の妙薬》とともにドニゼッティのオペラの最上の特質であるベル・カントの流麗な旋律によって今日も親しまれている。日本では,1918年に東京浅草の駒形劇場において原信子主演で一部分が紹介され,23年カーピ・イタリア歌劇団がほぼ全曲の初演を行っている。
執筆者:後藤 暢子
4世紀初め,ディオクレティアヌス帝の迫害で殉教したシチリア島シラクサの聖女。ラテン語読みではルキア。伝説によれば,アガタの墓に詣で母の病気回復を願ったところ,すぐにいやされた。神に感謝して財産を貧者に施したため,婚約者に密告され,捕らえられた。連行される際,大勢の兵士や牛に引かれたが動かず,火刑にも無事であったため,剣で首を切られた。また,彼女のひとみの美しさのとりこになり苦しむ青年があると聞き,自分の目をくりぬいて届けさせたとの伝説もある。このため美術に表されるときは一般に,くりぬいた目を載せた皿か盆(目のついた植物のこともある)を持つ。その名が光明を意味するところからランプ,ほかにシュロ(ナツメヤシ)の葉,剣を伴うこともある。盲人や眼病に苦しむ人の守護聖人。祝日は12月13日で,中世の暦では冬至にあたったため,昼が長くなることとルチアの名を結びつけて祭り(ルチア祭)が行われ,スウェーデンなどには今日も残る。
執筆者:井手 木実
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