改訂新版 世界大百科事典 「イオノン」の意味・わかりやすい解説
イオノン
ionone
ヨノンともいう。環状テルペンケトンの一種。その希薄溶液はスミレの香気を有し,重要な合成香料の一つである。ふつうはα-体とβ-体の2異性体の混合物である。無色の液体で,水にはほとんど溶けないがアルコールにはよく溶ける。沸点は,α-体123~124℃(11mmHg),β-体127~128.5℃(10mmHg)。シトラールとアセトンとのクライゼン縮合で得られたプソイドイオノンを閉環して合成される。両異性体の混合割合は,環化反応の際に使用される酸(ふつうはリン酸,硫酸など)の種類によって異なる。α-体とβ-体は精密分留により,またはそれらの酸性亜硫酸ナトリウム複塩の性質の差を利用するなどの手段で分離することができる。イオノンはあらゆるスミレ系調合香料の基礎剤として使われる。β-体はビタミンAの合成原料ともなる。
執筆者:内田 安三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報