翻訳|condensation
有機化学反応の形式の一種。2分子またはそれ以上の有機化合物が反応して、簡単な化合物の脱離を伴いながら新しい化合物を生成する反応をいう。たとえば、酢酸とエタノール(エチルアルコール)から酢酸エチルを生成するエステル化の反応は、酢酸とエタノールの両分子から簡単な化合物である水が脱離して、より大きい分子である酢酸エチルを生成するので縮合反応である( の(1))。
縮合反応ということばはかなり広く用いられていて、アルドール縮合のように、2種類の分子があわさって一つの大きな分子が生成するだけで、簡単な分子がとれないという例外的な縮合反応もある( の(2))。縮合反応をおこす二つの官能基が同じ分子内にある場合には分子内縮合といい、分子間でおこる普通の縮合反応と区別している。たとえば、γ(ガンマ)-ブロモ吉草酸の臭素Brとカルボキシ基(カルボキシル基)-COOHとが分子内で縮合してγ-バレロラクトンを生成する反応が分子内縮合の例である( の(3))。
次に、いくつかの代表的な縮合反応の例を示す。これらの縮合反応には発見者の名前にちなんだ人名反応が多い。
(1)クライゼン反応 ナトリウムアルコラート、ナトリウムアミド、ナトリウムなどの塩基の存在下で、カルボン酸エステルが2分子縮合してβ(ベータ)-ケト酸エステルを生成する反応である。ドイツのクライゼンRainer Ludwig Claisen(1851―1930)が1887年に安息香酸エステルと酢酸エステルとの縮合により、ベンゾイル酢酸エステルを得ているのでこの名でよばれる( の(1))。この反応により2分子の酢酸エチルが縮合するとアセト酢酸エチルになる。
(2)パーキン反応 芳香族アルデヒドを脂肪酸無水物とその酸のアルカリ塩の存在下で加熱して、α(アルファ),β-不飽和カルボン酸を合成する反応をいう。1867年にイギリスのパーキンが最初に、この方法により、ベンズアルデヒドと無水酢酸を酢酸ナトリウムの存在下で反応させてケイ皮酸を得た( の(2))。
パーキン反応に類似した縮合反応として、アルデヒドとアセト酢酸エステル、マロン酸CH2(COOH)2とを反応させてα,β-カルボニル化合物を得る反応がある。この反応は1890年代にクネベナゲルEmil Knoevenagel(1865―1921)が発見したのでクネベナゲル反応とよばれている。
(3)フリーデル‐クラフツ反応 1877年にフランスのフリーデルとアメリカのクラフツJames Mason Crafts(1839―1917)が発見した反応で、塩化アルミニウムなどのルイス酸触媒を用いて、芳香族化合物のアルキル化ないしはアシル化を行う反応である。
普通はアルキル化剤としてはハロゲン化アルキル、アシル化剤としては酸ハロゲン化物または酸無水物を用いる( の(3))。
(4)マンニヒ反応 この反応を最初にみいだしたのは、ドイツのトレンスBernhard Christian Gottfried Tollens(1841―1918)であるが、その後マンニヒCarl Mannich(1877―1947)が一般化した反応である。アンモニアまたは第一、第二アミン塩酸塩とホルムアルデヒドと活性水素をもつ化合物(カルボニル基の隣の飽和炭素上に水素がある化合物)の三者の縮合によりβ-ケトアミンを合成する反応である( の(4))。
(5)ストレッカー反応 この反応はアミノ酸の合成法として有名であり、1850年にストレッカーAdolph Friedrich Ludwig Strecker(1822―1871)が発見した。初めに、アルデヒドまたはケトンと塩化アンモニウムとシアン化アルカリの三者からα-アミノニトリルをつくり、次にこのα-アミノニトリルを塩酸により加水分解してα-アミノ酸に変換した(
の(5))。(6)スクラウプ反応とペヒマン反応 これらの反応はいずれも、二つの分子がそれぞれ二つの位置で縮合をおこして環式化合物を生成する反応で、縮合反応であると同時に環化反応である。スクラウプ反応は、チェコスロバキアのスクラウプZdenko Hans Skraup(1850―1910)が1880年に発見した反応で、アニリンとグリセリンを硫酸とニトロベンゼンの存在下で反応させてキノリンを合成する。ペヒマン反応は、ドイツのペヒマンHans von Pechmann(1850―1902)が1883年に発見したもので、レゾルシンなどのフェノールとβ-ケト酸エステルを、やはり硫酸の存在下で反応させて、クマリン置換体を得る反応である(
の(6))。ここにあげたのは、縮合反応のごく一部にすぎず、このほかにも有機合成反応として有用な縮合反応は数多く知られている。プリンス反応、マイケル反応(縮合)、ディークマン反応などその例は多い。縮合反応の定義を広くとれば、置換反応とよばれている反応も縮合反応の一種とみなせる場合が多い。縮合により高分子をつくる重縮合(ポリ縮合)も広義の縮合反応である。
[廣田 穰]
二つの官能基が反応して,水,アルコール,アンモニア,ハロゲン化水素などの簡単な分子が脱離してあらたな共有結合を形成する反応をいう.エステルのクライゼン縮合は,炭素-炭素結合の形成の例である.
CH3COCH2CO2C2H5 + C2H5OH
エステル化やエーテルの生成では,縮合により炭素-酸素結合が形成される.
C6H5COCl + C2H5OH → C6H5COOC2H5 + HCl
アミンのアシル化やヒドラゾンの生成は,炭素-窒素結合の形成例である.
C6H5COCl + C6H5NH2 → C6H5CONHC6H5 + HCl
C6H5CHO + H2NNHC6H5 → C6H5CH=NNHC6H5 + H2O
次に示すアルドール縮合とベンゾイン縮合は,分子の脱離はなく,付加というべきであるが,慣用上,縮合とよばれる.
CH3CHO + CH3CHO → CH3CHOHCH2CHO
C6H5CHO + C6H5CHO → C6H5CHOHCOC6H5
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
2個以上の有機化合物分子が,水,アルコールなどの簡単な分子の脱離を伴って,共有結合を形成すること。このとき得られる生成物を縮合物という。有機合成反応としてきわめて重要な反応で,多くの反応が知られている。アルコールと酸からのエステルの生成(式(1)),アミンとアルデヒドからのシッフ塩基の生成(式(2)),
アミンと酸塩化物からのアミドの生成(式(3))などは水が脱離する縮合反応である。
同種の分子どうしで縮合反応を起こす場合を自己縮合とよぶ。エチルアルコール2分子が酸の存在下で脱水され,ジエチルエーテルを与える反応(式(4))は自己縮合の例である。
人名反応もいくつかある。クライゼン縮合(式(5)),クネベナゲル縮合(式(6))などは工業的にも有用である。
これによく似た反応として,アルドール縮合とよばれる反応がある。この反応は実際には縮合ではないが,生成するアルドールが酸により簡単に脱水してα,β-不飽和化合物を与えるので縮合の名が付いている。また,ベンゾイン縮合も分子の脱離を伴わない反応であるので正式
には縮合ではないが慣用上こうよばれる。
縮合には多くの場合,触媒として,酸や塩基などの縮合剤が使われる。同一分子内での二つの異なる官能基間の縮合は分子内縮合とよばれ,ラクトンやラクタムの生成があげられる(式(7))。
三つ以上の分子が縮合を繰り返して高分子を形成する場合を重縮合とよぶ。これは高分子合成の重要な合成手段として工業的にも利用されている。
執筆者:友田 修司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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