ケンタウロス(読み)けんたうろす(英語表記)Kentauros

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ケンタウロス」の意味・わかりやすい解説

ケンタウロス
けんたうろす
Kentauros

ギリシア神話の半人半馬族。ヘラ女神に情欲を抱いたイクシオンが、雲からつくられたヘラの似姿と交わってもうけた一族とも、あるいはその結合から生まれたケンタウロス(個人名)が、牝馬(めすうま)と交わって生ませた一族ともいわれる。テッサリアの山に住む乱暴者たちで、ラピタイ人の王ペイリトオスの結婚式に招かれたおり、酒に酔って花嫁や侍女たちに狼藉(ろうぜき)をはたらこうとしたことから、ケンタウロスとラピタイ人の間に一大闘争が勃発(ぼっぱつ)する。その模様は、オリンピアゼウス神殿の西の破風(はふ)に描かれ、よく知られている。この戦いに敗れたケンタウロスたちは、テッサリアを追われてギリシア各地に散らばっていった。なかでもネッソスはエウエノス川の渡し人夫となったが、英雄ヘラクレスの妻ディアネイラを対岸へ運ぶときに彼女を犯そうとしたため、英雄に射殺された。しかし、野蛮なケンタウロスのなかにはフォロスやケイロンといったきわめて文化的な存在もあった。とくにケイロンは、イクシオンの血統ではなくティタン神のクロノスの子とされ、不死身なうえに医術狩猟武術、預言術などの達人として、アスクレピオスアクタイオンイアソン、アキレウスら英雄の師となった。

 ヤグルマギク(キク科)などの属名Centaureaは、ケイロンが誤って客人ヘラクレスの矢で自分の足を傷つけたとき、この草で治療したという伝承に由来する。

[中務哲郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ケンタウロス」の意味・わかりやすい解説

ケンタウロス
Kentauros

ギリシア神話中,上半身が人間で,腰から下は馬の形をした怪物種族。人間の身でヘラ女神を犯そうとしたイクシオンが,ゼウスによってヘラとそっくりの姿につくられた雲と交わって生ませたとされ,テッサリアの山中に住み,生肉を常食として野獣に近い暮しをしていたが,酒好きで,酔うと好色になり人間の女に乱暴を働く性向を有したため,ラピタイ族との間に争いが起り,戦闘に敗れてテッサリアを追われてアルカディアに移住した。ところがここでも酒が原因でヘラクレスと争うはめに陥り,この英雄にさんざんに痛めつけられたという。ケンタウロスのなかには,ケイロンやフォロスなど,ほかの仲間たちと違う穏和な性質の持主もいた。

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