改訂新版 世界大百科事典 「イシマキガイ」の意味・わかりやすい解説
イシマキガイ (石散貝)
Clithon retropictus
汽水から淡水域にすむまるいアマオブネガイ科の巻貝。殻の高さ2.1cm,太さ2.5cm,球卵形で堅固。巻きは低くて4階,殻表は厚くて滑らかな黒褐色の皮で覆われる。その上に通常小さい三角形状の黄褐斑が多数あって,その1角は殻口のほうへとがっているが,それと対になって黒色の三角形斑があり,これは反対の方向にとがる。殻口は半円形で内面は帯青白色。ふたは石灰質で内側の下のほうに突起があって殻にはまり,とれにくい。雌雄異体。夏季7~8月ごろ白色楕円形の卵囊を産むが,孵化(ふか)すると稚貝は下流へ流され汽水に入ると活動をはじめ,幼貝になると岩れきに付着して上流へ少しずつはい上がっていく。そのため上流では大型の成貝のみがすむ。本州の房総半島以南沖縄まで分布し,岩れきの上の藻類を歯舌で削り取って食べる。近似種にカノコガイC.sowerbianusが本州の紀伊半島以南にすむが,この種の斑紋は黄色の小三角形が殻口と反対の方向にとがる点で区別できる。
執筆者:波部 忠重
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報