日本大百科全書(ニッポニカ) 「インダストリー5.0」の意味・わかりやすい解説
インダストリー5.0
いんだすとりーごてんぜろ
Industry5.0
人間中心の持続可能な産業への革新を目ざす構想。ヨーロッパ委員会が2021年に提唱した概念で、蒸気機関の発明による第一次産業革命、電気による第二次産業革命、コンピュータによる第三次産業革命、インターネットなど情報技術(IT)による第四次産業革命に続く、第五次産業革命に該当するととらえられている。ドイツ政府が2011年に提唱したインダストリー4.0では、デジタル化により産業の効率化を目ざしたが、地球温暖化など環境破壊に歯止めがかからず、新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)の流行でサプライチェーンや人間らしい暮らしが損なわれるなど、環境、健康、社会問題などを重視する視点に欠けていたとの反省があった。このためインダストリー5.0は「人間中心human-centric」、「持続可能sustainable」、「回復力のあるresilient」という3目標を実現する産業革新を目ざしている。具体的には、(1)協働ロボット(コボット)に単調・反復的・危険な作業を任せ、人間は柔軟で複雑な思考・判断を担当する、(2)バイオ燃料や遺伝子研究で人体や環境に優しい製品を開発する、(3)工場や製品をコンピュータ上にバーチャルで双子のように再現するデジタルツイン(Digital Twin)技術で省エネ・省資源化を推進する、(4)複数企業をまたいでデジタル技術やデータを共有する、(5)シリコンバレー企業に寡占されがちな技術をブロックチェーンやNFT(非代替性トークン)で脱集権化することなどで、働きやすい労働環境、循環型経済、公平な配分などを実現する手法が検討されている。
インダストリー5.0の類似概念として、日本政府が2016年(平成28)に閣議決定した第5期科学技術基本計画のなかで打ち出した、経済成長と社会的課題の解決を両立させる「Society(ソサエティ)5.0」構想や、中国政府が2015年にIT革命によって製造強国を目ざすとした「中国製造2025」計画に盛り込まれた、環境に配慮した「グリーン製造」概念がある。ドイツ政府は2019年、インダストリー4.0を進化させた「2030ビジョン」を発表し、「持続可能性」などを追求する必要性を強調しており、世界的にインダストリー5.0に関するさまざまな概念、基準、規格、プラットフォームづくりが進むとみられている。
[矢野 武 2022年12月12日]