日本大百科全書(ニッポニカ) 「イームズ」の意味・わかりやすい解説
イームズ
いーむず
Charles Eames
(1907―1978)
アメリカの家具デザイナー。セントルイスに生まれ、ワシントン大学で建築を専攻した。1930年より夫人のレイRay Eames(1912―88)とともにデザイン事務所を設立、また1938年にはクランブルック美術学校に迎えられた。デザインの領域はステンドグラス、玩具(がんぐ)からディスプレーまで幅広いが、1941年にニューヨーク近代美術館主催の「有機的な家具デザイン・コンペ」にエーロ・サーリネンとともに複雑な曲面のある椅子(いす)を出品して大賞を得てより、椅子に新生面を開くことが主要な仕事となった。1946年にはニューヨーク近代美術館で新作家具展を開催して評価を築き、その後も新しい材質と構造の研究に基づいて近代生活に見合った格調高い椅子を数多く開発した。デザインの根底にある有機主義によって「イームズ・チェア」の名が授けられている。1960年には夫人とともにカウフマン国際デザイン賞の第1回受賞者となった。
[高見堅志郎]
建築家としてのイームズ
イームズは1960年代なかばまでは建築家としても活動した。『アーツ・アンド・アーキテクチャー』Arts & Architecture誌による、工業製品を活用した一般住宅の建築を目指したケース・スタディ・ハウスのプロジェクトに参加した自邸(ケース・スタディ・ハウス#8、1949)は、20世紀の建築史において重要な実験住宅である。イームズ邸はすべての部材をカタログから選択してつくられた。これはもちろん、コストの削減、工期の短縮、建設の簡易化を可能にする合理的な方法であるが、カタログの時代におけるデザインの方法を示したことにより評価される。壁面に夫人レイによる鮮烈なカラーリングが施された窓やドアに、イームズは工場用の規格品を用いた。それによりオリジナルの部材でなくとも、カタログからの選び方によって独特な空間を生みだすことができることを実証したのである。また、現場に鉄骨が到着してから計画が全面的に変更されたにもかかわらず、使用する部材の組み替えをパズル的に操作し、鉄骨の梁(はり)を1本追加発注しただけですませている。そのほかの作品に、同じプロジェクトに参加したケース・スタディ・ハウス#9(1949)もある。
他方でイームズ夫妻は編集者的なセンスをもち、1950年代には多くの映像作品も制作した。「住宅――ケース・スタディ・ハウス#8 5年後の生活」(1955)は、あえて動画を使わず、膨大な写真によって自邸と日用品の様子を記録している。著名な「パワーズ・オブ・テン」(1977)は、わずか9分半の間に、極小の細胞から極大の宇宙まで、10の累乗で画面のスケールを変化させて撮った興味深い映像である。ニューヨーク世界博(1964~65)のIBM館パビリオンのマルチスクリーンショーも手がけている。
ミラノ・トリエンナーレ金賞、AIA(アメリカ建築家協会)名誉賞、RIBA(英国王立建築家協会)ロイヤル・ゴールド・メダル受賞。著書に『コンピュータ・パースペクティブ』A Computer Perspective(1973)などがある。
[五十嵐太郎]
『山田敦子訳『コンピュータ・パースペクティブ――計算機創造の軌跡』(1994・アスキー)』▽『アプトインターナショナル編『イームズ・デザイン』(2001・東京都美術館)』▽『James SteeleEames House ; Charles and Ray Eames (1994, Phaidon Press, London)』▽『Pat KirkhamCharles and Ray Eames; Designers of the Twentieth Century (1995, MIT Press, Cambridge)』▽『Donald AlbrechtThe Work of Charles and Ray Eames (1997, Harry N. Abrams, New York)』