日本大百科全書(ニッポニカ) 「サクラメント」の意味・わかりやすい解説
サクラメント(秘蹟)
さくらめんと
Sacramentum ラテン語
日本語では秘蹟(ひせき)とよばれる。カトリック教会がキリストの救いの力によって施行する儀式において発揮する活作用のこと。それは、聖体、洗礼、堅信、品級、婚姻、告解、終油の七つである。
サクラメントの本質はトリエント公会議(1545~1563)によって次のように定義されている。(1)キリストによって制定されたこと、(2)神の超自然の恩寵(おんちょう)を示し、それを与える印(しるし)(シンボル)であること、(3)その印は質料materiaと形相formaからなる統一体である。たとえば洗礼の場合、水で受洗者を洗うことが質料であり、洗礼を授ける者が受洗者にいうことば「私は父と子と聖霊の御名においてあなたに洗礼を授ける」が形相である。「教会の秘蹟は外形的な儀式によって授けられるが、そのとき秘蹟の効果を霊魂に実現するのはキリストご自身である」(ピオ12世「神秘体に関する回勅」)。つまり、秘蹟の効力の源は、救い主イエス・キリストの功徳、とくに受難と復活の功徳である。
七つの秘蹟は前述のような共通性をもつが、おのおのはそれぞれの機能と目的をもち、それでいて全体として一つの統一をなしている。
洗礼によって人間は罪が許され、神の子となり、教会という共同体のメンバーとなる。堅信によって人々は恩恵が増し、信仰は強められ、信仰のために働くキリストの兵士となる。聖体によってキリストの受難と復活にあずかり、キリストと一致し、教会とより深く結ばれる。告解によって犯した罪から浄(きよ)められ、終油によって霊的にも肉体的にも病から回復する。叙階によって教会はその牧者を得て、霊的に成長し、婚姻によってキリストと教会の霊的結合を象徴し、神の民を増やす。七つの秘蹟の現れ方はこのように異なるが、サクラメントがキリストの救いの働きによって人類に与えられた「神のいのち」の充満の具体的顕現であるという点では一致している。そのいのちの「充満」は教会に宿り、教会は秘蹟を通じてそのいのちをすべてのメンバーに分け与えるのである。
ギリシア正教会では、カトリック教会と同じく七秘蹟を認め、これらを荘厳な典礼において施行することが教会生活の中心をなしている。プロテスタント教会ではサクラメントをもっとも重要な教会の業となすが、各派によってその理解が異なる。七秘蹟のうち、聖書に基づき洗礼と聖餐(せいさん)(聖体と同じ)の二つのみをサクラメントとして認める。だが聖餐については、ルター、カルバン、ツウィングリの三者に意見の対立がみられたように、「聖餐のうちにキリストは真に現存するか」などの問題は、今日も論争されているものである。
[門脇佳吉]
サクラメント(アメリカ合衆国)
さくらめんと
Sacramento
アメリカ合衆国、カリフォルニア州中北部、サクラメント川に臨む同州の州都。人口40万7018(2000)。コースト山脈とシエラ・ネバダ山脈に挟まれた肥沃(ひよく)なセントラル・バリーのほぼ中央に位置する。行政および交通、商工業、文化の中心地であるほか、工業力と肥沃な農業地帯、さらに美しい景観を同時にあわせもった恵まれた都市の一つといえる。サクラメント谷に産する野菜、果物の集散地、市場であり、これらが主産業である食品加工業を支える。そのほか、石油、天然ガス、材木、鉱石、水力などの資源が豊富なため多くの工業が発達し、近年はロケットエンジン、ミサイルなど航空宇宙産業やエレクトロニクスの中心地としても知られる。1839年スイス人のJ・A・サターが入植、48年サターの経営する工場付近に発見された金鉱脈が大ゴールド・ラッシュを引き起こし、町は物資供給地として大きく発展し、54年には同州の州都となった。のち河口港としての活躍が目だつとともに、1856年に同州最初の鉄道のターミナルとなってから、60年ポニー・エクスプレスの西のターミナル、69年の大陸横断鉄道の開通まで鉄道交通の中枢都市としてさらに発展した。
文化の中心でもある同市は、数多くの美術館、博物館をもつが、なかでもダ・ビンチ、ミケランジェロ、レンブラントなど世界の巨匠の作品を集めたクロッカー美術館や、博物館として一般公開されているフォート・サター、昔のサクラメントの町を復原したオールド・サクラメントなどが興味深い。ツバキの産地で、「ツバキの町」と別称されている。
[作野和世]