建築家(読み)けんちくか(英語表記)architect

翻訳|architect

精選版 日本国語大辞典 「建築家」の意味・読み・例文・類語

けんちく‐か【建築家】

〘名〙 建築物の設計および工事の監督などを業とする人。建築師。〔和蘭学制(1869)〕

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デジタル大辞泉 「建築家」の意味・読み・例文・類語

けんちく‐か【建築家】

建物の設計や工事の監理などを職業とする人。

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改訂新版 世界大百科事典 「建築家」の意味・わかりやすい解説

建築家 (けんちくか)
architect

アーキテクト(建築家)という呼名の起源は,ギリシア語のアルキテクトンarchitektōnで,これは〈大技術家〉という意味である。つまり,単に大規模で重要な建物を建てるだけでなく,道路,橋梁,水道,港湾のような土木工事,城壁,要塞,攻城機械,投石機のような軍事技術,日時計,水時計,揚水機起重機,運搬機のような機械製作も行う多芸多才な技術者で,平時には神殿その他を建て,戦時には軍事技術者として従軍し,攻撃や防備の施設や道具をその場で考案しつくり出す技術家であった。

建築史に現れる世界最初の建築家は,古代エジプト第3王朝のジェセル王の宰相イムヘテプで,王のためにエジプト最古の石造建造物,サッカラの階段ピラミッドとその付属建造物(前2600ころ)を建設した。この建物は,古代エジプトにおいてもすでに不滅の傑作とみなされていたようで,イムヘテプはやがて神格化され,建築家の守護神とみなされた。古代ギリシアでは,サモスヘラ神殿を建て,それについて最古の建築書を書いた前6世紀の建築家サモスのテオドロスTheodōros,前5世紀にアテナイアクロポリスの再建計画で活躍したイクティノスカリクラテスムネシクレス,疑似二重周柱式イオニア神殿の考案者である前2世紀のプリエネの建築家ヘルモゲネスが著名である。ヘルモゲネスの建築書は,建造物のつくり方に数学的法則性を与えたものとして知られ,ローマの建築家たちに大きな影響を与えた。古代ギリシアの建築書はすべて失われてしまっているが,それらの内容の大要は,前1世紀のローマの建築家ウィトルウィウスが前30年ころに書いた10巻の建築書によって,今日まで伝えられている。暴君ネロに仕えた3人の建築家,セウェルスSeverus,ケレルCeler,ラビリウスRabiriusは,自在かつ独創的なアイデアで知られ,トラヤヌス帝とハドリアヌス帝に仕えたダマスクスアポロドロスは,おそらくローマ帝国時代最大の建築家であった。ハドリアヌス帝は,みずからもすぐれた建築家であって,ローマのパンテオン,〈ウェヌスとローマの神殿〉,ティボリのハドリアヌスの別荘(ビラ・アドリアーナ)などの実質上の設計者とみなされている。

西洋中世の修道院や大聖堂を建設した建築家は,決して無名であったわけではなく,サン・ドニ修道院教会堂やパリのノートル・ダム大聖堂の建築家ピエール・ド・モントローPierre de Montereau(?-1267)や,ロンドンのウェストミンスター・アベーやカンタベリー大聖堂身廊部の建築家イェーベルHenry Yevele(?-1400)のほか,多数の建築家,石工親方の名が知られているが,古代と同じく,建築家自身の経歴や人物については,ほとんど知られていない。しかし,その一般的な性格は古代から引き継がれたもので,教会堂や城郭や市壁の建設のために各地を渡り歩き,戦時には軍事技術者として雇用されていたものと思われる。

イタリア・ルネサンスの開始とともに,建築家はにわかに独立した個性的な存在として注目されるようになる。さらに,フィレンツェ出身の画家・建築家であったバザーリが,著名な《芸術家列伝》のなかで,他の芸術家と並べて,建築家の個性的行動を活写したため,建築家も意識的に名誉と名声を求めるようになった。ルネサンスとバロック時代の建築家は,画家・彫刻家出身の人物が多く,芸術的才能は神が授けてくれる天分と信じていたため,ウィトルウィウスが伝えたギリシアのアルキテクトンの概念が強くよみがえり,建築家は単なる職人や技術者とは異なる主導的芸術家であるとする思想が生まれ,現代にまで及んでいる。この考えを初めて具体化したのはL.B.アルベルティで,彼は劇作家,音楽家,画家,建築家,数学者,科学者,競技者を兼ね,しかも美学者,建築学者として《絵画論》や《建築論》10巻を著すといった〈万能の天才〉であり,多忙のためもあって,建築の設計のみを行い,建物の建造は他の建築家に任せるという設計者・施工者の分離をみずから行った。ルネサンスとバロック時代の建築はひじょうに美術的で趣向豊かなものであったから,建築家には各種の職人,美術家,工芸家を手配し,指図する能力が必要であった。イタリアのベルニーニ,フランスのマンサールなどは,その才能によって王侯に等しい待遇を受け,建築史上最高の社会的地位に達した建築家であった。

軍事技術および産業革命の発展とともに台頭したエンジニアの進出によって,ルネサンス以来の美術家的建築家は大きな職業的脅威に直面し,ギルド的な協会や学校をつくり,みずから建築家の資格を認定するなどして,職域を守ろうとした。しかし,先進諸国が理想とした議会制民主主義の進展とともに貴族階級が衰退して,建築家は有力なパトロンを失い,また新興の富豪や事業家,官僚はますます実利本位の建築を求めたため,エンジニアの優位は決定的なものとなり,建築家の教育もしだいに技術主義に傾いて今日にいたっている。しかし,近代建築運動が定着するに従って,画一的な近代建築に対する疑問が生じており,伝統的建築との融和や,より穏健で安定した形式,より多様な芸術性が求められるようになったため,建築家の性格や能力についても新たな展開が期待され始めている。

古代の〈大技術家〉,近世の〈大芸術家〉の理想から見て,近代の建築家は,みずからが選んだ建築の機械化および工業化,そして建築業務の専門分化によって,かえって自縄自縛に陥ってしまったように思われる。つまり,建築を機械工業的なものとみなしたため,いわば一種の巨大な耐久消費財をつくり出す業務者となり,次々に新しい技術を追い,新しい製品をつくることを余儀なくされている状況といえる。これは産業社会・大衆社会の趨勢ではあっても,逆に社会の側からいえば,建築家はいなくても建築物は建てられるという状況であることにほかならない。むしろ,これらの近代建築家をもまた一種の技術家とみなして,すべての技術家を統率し,調和的な建築と都市をつくりだすような〈大建築家〉の出現が待望されるのである。
建築 →建築学 →建築士 →大工 →棟梁
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リフォーム用語集 「建築家」の解説

建築家

自らの美学的見地・論理的分析にもとづいて建築物を設計し、実現に必要な知識や折衝能力・監督能力を有する人の事。意匠設計を重点的にする事が多い。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「建築家」の意味・わかりやすい解説

建築家
けんちくか

建築士」のページをご覧ください。

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