ウィルデルス(読み)うぃるでるす(その他表記)Geert Wilders

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウィルデルス」の意味・わかりやすい解説

ウィルデルス
うぃるでるす
Geert Wilders
(1963― )

オランダの政治家。南部の小都市フェンローに生まれる。中東を長期に旅行したのち、オランダの政府機関に勤め、ついで保守系自由主義政党である自由民主国民党の職員となる。1998年、同党の下院議員に当選し、以後ほぼ一貫して議席を保持している。2004年、自由民主国民党を離党し、2006年には自由党を設立して、以後党首を務めている。ヨーロッパのポピュリスト指導者の代表格の一人でもある。2005年のヨーロッパ憲法条約の批准をめぐるオランダの国民投票では、反対運動の中心人物として否決を導き、憲法条約を葬り去る結果となったことから、国際的な関心を集めた。2010年選挙で自由党は第三党となり、自由民主国民党の首班リュテ(ルッテ)Mark Rutte(1967― )の連立政権に閣外協力する(2012年まで)。2017年3月の総選挙では、ヨーロッパ連合(EU離脱を主張する自由党が政権を獲得する可能性が取りざたされ、国際的な注目の的となったが、自由党は第二党に終わり、政権参加もかなわなかった。

 これまでのウィルデルスによる急進的な既成政党批判、反移民・反イスラムを訴える排外的な主張は強い反発を招いており、他党から連立のパートナーとして排除されることがほとんどである。他方で、既成政治に距離を置く無党派層の支持を受けることには成功し、自由党支持の裾野(すその)を広げてきた。彼は西洋近代的価値としての「自由」を重視するが、その観点からイスラムを西洋的自由や、政教分離、男女平等を認めない宗教として批判する、という独自の論法をとる。また「オランダのアイデンティティ」の保持を主張しつつ、EUには強い批判を向け、イギリスと同様に国民投票でEU離脱を決することを訴えている。反EUを旗印に、ヨーロッパレベルのポピュリズム政党の協力関係の構築にも積極的に関わっている。

 なお自由党は、他国のポピュリズム政党がしばしば陥ったような内紛にみまわれることが少なく、ウィルデルスによる独裁的な党運営が継続しているが、その背景にあるのが公式の党員をウィルデルス一人に限定し、彼が党の意思決定を全面的に握る、独特の「一人政党」という党構造があると指摘されている。

[水島治郎 2017年12月12日]

『水島治郎編『保守の比較政治学――欧州・日本の保守政党とポピュリズム』(2016・岩波書店)』『水島治郎著『ポピュリズムとは何か』(中公新書)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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