改訂新版 世界大百科事典 「エンハーモニック」の意味・わかりやすい解説
エンハーモニック
enharmonic
音楽理論用語。〈微分音的〉と〈異名同音的〉の二とおりに訳される。(1)古代ギリシアの音楽理論では,音階を全音階的,半音階的,エンハーモニックの三つに区別し,エンハーモニックはテトラコルド(4音音列)が微小音程(4分音あるいは4分音に近い音程)を含む場合をいう。(2)近代理論においては,純正律における近似的な微小音程,12平均律では,たとえば鍵盤上の〈嬰ロ〉と〈ハ〉,〈嬰ハ〉と〈変ニ〉のように,音名と記譜法が異なっても同一の音の関係をエンハーモニック(異名同音)と呼ぶ。また異名同音的音程とは,減5度と増4度,短3度と増2度のように,記譜上は異なっても平均律上では同じ音程をなす音程である。このように異名同音的に,ある音を別の名で呼びかえたり(異名同音的転換),ある和音を別種の和音として解釈し直したりすること(異名同音的転義)は,転調の重要な手段の一つであり,このような転調を異名同音的転調という。
執筆者:津上 智実
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報