日本大百科全書(ニッポニカ) 「オニハダカ」の意味・わかりやすい解説
オニハダカ
おにはだか / 鬼裸
deep-water bristlemouth
[学] Cyclothone atraria
硬骨魚綱ワニトカゲギス目ヨコエソ科に属する海水魚。北海道のオホーツク海から太平洋側沖を経て、南西諸島沖、小笠原(おがさわら)諸島近海、南シナ海東北部など太平洋の亜熱帯から亜寒帯の海域に広く分布する。体は細長く側扁(そくへん)する。目は小さく、頭部の先端近くに位置する。口は大きく、上顎(じょうがく)の後端は目のはるか後方に達する。上顎に細長い歯が1列に密に並び、後方に向かってだんだんと大きくなる。鰓弓(さいきゅう)には上枝に8~9本、下枝に11~12本、その間に2本、あわせて21~23本の鰓耙(さいは)があり、下枝の前部の鰓葉の幅は広い。下顎縫合部には発光器(縫合発光器)がない。胸びれの基底(付け根の部分)上端付近から肛門(こうもん)の上方にある発光器(体側発光器)は9~10個で、後ろの2個は腹びれ基底の後方に位置する。腹びれ基底から臀(しり)びれ起部までの発光器(腹部腹側発光器)はきわめて小さい。尾柄(びへい)の上部と下部に発光腺(せん)があり、ほとんど同長。背びれと臀びれの起部は同じ垂直線上から始まる。臀びれの基底長は短くて、背びれの基底長の2倍以下。脂(あぶら)びれ(背びれの後方にある1個の肉質の小さいひれ)はない。体は一様に黒色から黒褐色。水深500~1500メートルの中深層~漸深層を、大群でほとんど遊泳しないで浮遊生活をしている。体長は最大でも5.0~6.5センチメートルくらいにしかならない小形種。雄性先熟型の性転換をし、体長20ミリメートル以下では全個体が雄で、大きくなるにつれて雄の割合が少なくなる。一方、体長38ミリメートル以上では全個体が雌で、それ以下では体が小さいほど雌の割合が少ない。雄から雌になる間に雌雄同体の個体がみられる。
本種が属するオニハダカ属には、日本近海から体色が一様に黒色から黒褐色の本種、センオニハダカC. acclinidensおよびクロオニハダカC. obscuraと、体色が白色から灰褐色のユキオニハダカC. alba、ハイイロオニハダカC. pseudopallidaおよびウスオニハダカの6種が報告されている。本種はセンオニハダカによく似るが、センオニハダカは尾柄上部発光器が長くて、前端が背びれ後端の近くに達することで本種と異なる。またクロオニハダカには体に発光器がないことで区別できる。
[上野輝彌・尼岡邦夫 2025年8月19日]