改訂新版 世界大百科事典 「オリエント学」の意味・わかりやすい解説
オリエント学 (オリエントがく)
Orientalistik[ドイツ]
オリエントの言語や歴史,文化を研究する学問の総称。欧米では広義のオリエントを対象としているので,そのなかには後述の諸学のほかに,インド学や東南アジア研究,モンゴル学,シナ学(中国学),朝鮮学,日本学などまで含まれる。西ヨーロッパのオリエント研究は,中世におけるイスラム文化との出会いとその受容の時期にさかのぼるが,分科した各専門領域が近代的学問として確立するのは19世紀においてである。1873年にはパリにおいて第1回の国際オリエント学会議が開催され,1983年の東京大会は第31回を数える。しかし,会議の名称は,1973年の第29回パリ大会において,ヨーロッパを基準にしたオリエント(東方)の呼び方は不適当とされ,〈国際アジア・北アフリカ人文科学会議〉に変更され,さらに86年のハンブルク大会からは,International Conference for Asian and African Studies(国際アジア・アフリカ研究会議。正式日本語訳は未定)と改称することが決定されている。日本においてはオリエントを狭義の歴史的世界の呼称として用い,したがってオリエント学に含まれる分野も限定されている。エジプト学,アッシリア学,シュメール学,ヒッタイト学,ヘブライ学,セム学,アラビア学,イラン学,トルコ学,イスラム学などがこれに属する。日本のオリエント学研究は第2次大戦前から開始され,東京駒込の東洋文庫には広義のオリエント学文献が収集された。この地域に対する関心の高まりもあって研究者もしだいに増加し,1954年に日本オリエント学会の創立をみた。65年には〈大学設置基準の改善等について〉(答申)によって,〈エジプト学,アッシリア学,イスラム学等中近東関係の専門学〉について学科・専門課程の設置が認められた。しかし,学科としては82年に東京大学文学部にイスラム学科が設置されたにとどまっている。
執筆者:佐藤 進
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報