日本大百科全書(ニッポニカ) 「クジラウオ」の意味・わかりやすい解説
クジラウオ
くじらうお / 鯨魚
whalefish
硬骨魚綱キンメダイ目カンムリキンメダイ亜目クジラウオ上科に属するアンコウイワシ科Rondeletiidae(英名redmouth whalefishes)、アカクジラウオダマシ科Barbourisiidae(英名red whalefishes)およびクジラウオ科Cetomimidae(英名flabby whalefishes、whalefishes)の海水魚の総称、またはそのなかの一種。とくにクジラウオ科の雌の体形はクジラに似ている。
口は大きく、上顎(じょうがく)の後端は目の後縁下方に達するか、そこをはるかに越えて後方に伸びる。皮膚はぶよぶよして締まりがなく、体表面に鱗(うろこ)がないか、アカクジラウオダマシ科では1本の小棘(しょうきょく)を備えた小さい鱗がある。側線はよく発達して太い溝状であるが、アンコウイワシ科では小乳頭状の感覚突起が垂直に並ぶ。クジラウオ科では目が退化してきわめて小さい。すべてのひれに棘がない。背びれと臀(しり)びれは体の後部におよそ上下対(つい)をなして位置する。腹びれは腹部にあり、5~6軟条からなるが、クジラウオ科には腹びれはない。体色は赤色系のものが多い。外洋の中深層~漸深層にすみ、最大体長は11~40センチメートルになる。アンコウイワシ科には世界から2種が知られ、日本にはアカチョッキクジラウオが分布している。アカクジラウオダマシ科には世界からアカクジラウオダマシの1種しか知られていない。クジラウオ科には世界から9属20種ほど、日本からリボンイワシ、ソコクジラウオ、クジラウオ、ホソミクジラウオ、オオアカクジラウオ、チヒロクジラウオDanacetichthys galathenus、スミクジラウオDitropichthys storeri、イレズミクジラウオCetomimus compunctusなど8属11種が知られているが、未記載種も含まれている。また、これらの種のなかには雌雄および親子の関係が不明のものが別属、別種として記載されている可能性がある。ほとんどの種はきわめて珍しく、1個体~数個体しかとれていない種もある。
魚類研究者のパクストンJohn Richard Paxton(1938―2023)は1998年、1999年にクジラウオ科の標本は雌ばかりで、ソコクジラウオ科の標本は雄だけ、そしてトクビレイワシ科の標本はいずれも未成魚であることを指摘した。ネルソンJoseph S. Nelson(1937―2011)は、クジラウオ科に近縁な科としてトクビレイワシ科(世界から3属5種、日本からリボンイワシ1種)とソコクジラウオ科(世界から4属7種、日本からソコクジラウオ1種)をクジラウオ科といっしょにクジラウオ上科に入れた(2006)。宮正樹(みやまさき)(1959― )らは、クジラウオ科の種とトクビレイワシ科の種のミトコンドリアDNAの塩基配列はほとんど差がないことを示した(2003)。ジョンソンG. David Johnson(1945―2024)らはこれら3科のミトコンドリアDNAと形態を調べた結果、同じ科に属する種の雌、雄、仔魚(しぎょ)に相当することが判明した(2009)。しかし、それぞれの種の雌雄と親子の関係はいまだ明らかになっていない。そこで、トクビレイワシ科に入れられていたリボンイワシとソコクジラウオ科に入れられていたソコクジラウオは、クジラウオ科の種として取り扱われている。
一方、ネルソンらは、クジラウオ科をキンメダイ系のキンメダイ目カンムリキンメダイ亜目に分類している(2016)が、クジラウオ科をカンムリキンメダイ目としている研究者もいる。
[上野輝彌・尼岡邦夫 2025年8月19日]
代表種
クジラウオCetichthys parini(英名parin whalefish)は、北海道近海、千島(ちしま)列島近海、小笠原(おがさわら)諸島近海、マリアナ海溝、ジャワ海溝、ロサンゼルス近海など太平洋に分布する。体はやや細長く、胸部でもっとも高い。目は著しく小さく、上顎のほぼ中央の上方にある。口は著しく大きく、水平に開き、上顎の後端は前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)の縁辺前部に達する。体側には幅が広い溝状の側線が鰓孔の上端から尾柄(びへい)後端まで直走し、9~11個の側線孔が開口する。頭部にもたくさんの感覚孔が開く。背びれと臀びれはおよそ同形で、基底長(付け根の部分の長さ)が短く、体の後部に上下対をなして位置する。背びれは13~16軟条で、臀びれは12~14軟条。臀びれの基底部に肉質の突起がある。肛門(こうもん)は臀びれの起部よりもかなり前方に位置する。外洋の漸深層にすみ、体長は約19センチメートルになる。クジラウオは肛門が臀びれ起部よりもかなり前にあること、臀びれの基底に肉質突起があること、背びれと臀びれの基底が短いことなどの特徴で、クジラウオ科の他種と区別できる。
[上野輝彌・尼岡邦夫 2025年8月19日]