日本大百科全書(ニッポニカ) 「クリスティ」の意味・わかりやすい解説
クリスティ
くりすてぃ
Agatha Christie
(1890―1976)
イギリスを代表する女流推理作家。9月15日、デボンシャーのトーケイに生まれる。正規の学校教育はほとんど受けていない。1914年の最初の結婚後は、第一次世界大戦中に篤志看護婦としてトーケイの病院で働くが、このころから処女作『スタイルズ荘の怪事件』を書き始め、16年に完成、20年に処女出版している。この作品において、おなじみの卵型の頭をしたベルギー人探偵エルキュール・ポアロHercule Poirotがデビューしている。数編の作品発表のあと、独創的手法と意外な犯人によって評判の『アクロイド殺人事件』(1926)で推理作家の地歩を固めたが、この直後に有名な謎(なぞ)の失踪(しっそう)事件を起こし、翌々年に夫と離婚、30年に少壮考古学者M・マローワンと再婚するなどしてマスコミを騒がせたりした。
クリスティが文字どおり「死の公爵夫人」とか「犯罪の女王」の名にふさわしい活躍をするのはこれ以後であって、『オリエント急行の殺人』(1934)、『ナイルに死す』(1937)、『そして誰(だれ)もいなくなった』(1939)、『白昼の悪魔』(1941)、『ゼロ時間へ』(1944)、『葬儀を終えて』(1953)、『鏡は横にひび割れて』(1962)、『動く指』(1968)など、晩年になっても衰えないアイデアと筆力で、66編の長編のほか短編、戯曲などを発表し続け、その芝居『ねずみとり』(1952初演)は驚異的なロングランを達成している。
作品の特徴は、プロット上の卓抜なアイデアのなかに無理のないトリック、人間の性格からくる葛藤(かっとう)が巧みに導入されていることで、彼女が創作したポアロと並ぶもう1人の名探偵ミス・マープルは、人間の性格に目をつけて推理することを得意としている。推理小説のほかに、メリー・ウェストマコットMary Westmacot名でロマンチック小説も執筆したほか、『自伝』(1977)もある。1976年1月12日没。
[梶 龍雄]
『ロビンス著、吉野美恵子訳『アガサ・クリスティの秘密』(1980・東京創元社)』▽『キーティング他著、加藤恭平他訳『アガサ・クリスティー読本』(1978・早川書房)』▽『乾信一郎訳『アガサ・クリスティー自伝』(1978・早川書房)』▽『『世界ミステリ全集1 アガサ・クリスティ』(1972・早川書房)』