ドクトル・ジバゴ(読み)どくとるじばご(英語表記)Доктор Живаго/Doktor Zhivago

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドクトル・ジバゴ」の意味・わかりやすい解説

ドクトル・ジバゴ
どくとるじばご
Доктор Живаго/Doktor Zhivago

ロシア詩人パステルナーク長編小説。1957年、旧ソ連国内で出版を許されぬままイタリアで出版。翌年、作者のノーベル文学賞受賞をめぐって、ソ連では「反革命的」小説の烙印(らくいん)を押されたが、これは政治文書にはほど遠いもので、むしろ詩と散文の交錯する地点に新しい表現の可能性を目ざした純粋に芸術的な作品と評価される。主人公の医師ユリー・ジバゴは、革命が政治的、社会的な選択と権力への思想的忠誠を迫った時代に、あくまでも個人の精神的な自由に誠実に生きようとした知識人の典型として示され、永遠のロシアを象徴する女性ララへの主人公の愛、自然との詩的な交感、時代の便乗者と落後者に仕分けられる作中人物たちの運命を通して、革命と社会主義の現実への作者の深刻な幻滅、神話的な統一原理への憧憬(しょうけい)が語られる。68年デビッド・リーン監督によって映画化された。

江川 卓]

『江川卓訳『ドクトル・ジバゴ』(1980・時事通信社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ドクトル・ジバゴ」の意味・わかりやすい解説

ドクトル・ジバゴ
Doktor Zhivago

ソ連の詩人 B.パステルナーク唯一の長編小説。ソ連で出版を許されず,1957年イタリアで出版。翌年作者がノーベル文学賞に選ばれ,世界的な「政治と文学」論争となった。パステルナークは「反革命的」とされて作家同盟を除名され,ノーベル賞も辞退した。医師で詩人の主人公ユーリー・ジバゴが革命の嵐のなかに投込まれ,思想的動揺を重ねながら生抜く姿を通して,ロシアのインテリゲンチアの生と死を描いている。

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