日本大百科全書(ニッポニカ) 「クロアジモドキ」の意味・わかりやすい解説
クロアジモドキ
くろあじもどき / 黒鰺擬
black pomfret
[学] Parastromateus niger
硬骨魚綱スズキ目アジ科アジ亜科に属する海水魚。太平洋側では青森県以南、日本海側では兵庫県以南、小笠原(おがさわら)諸島、朝鮮半島、台湾など西太平洋とインド洋に広く分布する。体高は高く、側扁(そくへん)する。体の背腹の外郭は強く湾曲し、ほとんど同形。頭部の前縁の傾斜はいくぶん急角度。吻端(ふんたん)は鈍く、吻長は眼径にほとんど等しい。口は小さく、上顎(じょうがく)の後端は目の前縁付近の下方に達する。上下両顎には小さい円錐歯(えんすいし)が1列に並ぶ。鰓耙(さいは)は上枝に5~7本、下枝に13~16本。背びれは2基で、第1背びれは6棘(きょく)または5棘あるが、成魚では皮下に埋没して見えない。第2背びれは1棘41~44軟条。臀(しり)びれは1棘35~39軟条で、前方に2本の遊離棘がある。第2背びれと臀びれの前部の軟条は鎌(かま)状に伸びる。胸びれは長くて、鎌状。腹びれは幼魚(尾叉長(びさちょう)10センチメートル以下)では目の下方にあるが、成魚ではなくなる。側線は胸びれの上方でわずかに湾曲し、第2背びれの後部下方で体側の中央を後方に向かって直走する。稜鱗(りょうりん)(鋭い突起を備えた肥大した鱗(うろこ)。一般には「ぜんご」「ぜいご」ともいう)は尾柄(びへい)部に8~19枚あるが、非常に弱い。体の鱗は小さくてはがれやすい。胸部は完全に鱗で覆われ、背びれと臀びれはほとんど鱗をかぶる。体色は成魚では一様に銀灰色や青褐色で、ひれの縁辺は暗色。幼魚には黒くて長い腹びれがある。水深15~80メートルの砂泥底近くに群れですみ、夜間に表層近くに上昇する。ときどき、体を横にして泳いでいるところが観察されている。おもに小形の甲殻類、クラゲ類、底生動物などを食べる。最大全長は約55センチメートルになる。刺網(さしあみ)、底引網などで漁獲され、焼き魚、煮魚、刺身などにするとおいしい。日本での漁獲量は少ないが、インドの西海岸、インドネシアなどでは重要な漁獲対象魚である。
本種は成魚では第1背びれ棘が皮下に埋没していて見えないこと、腹びれがないことなどから、本種のみからなるクロアジモドキ科が創設されたこともあるが、現在ではアジ科に入れられている。
[尼岡邦夫 2024年5月17日]