サケ・マス(読み)さけます

食の医学館 「サケ・マス」の解説

さけます【サケ・マス】

《栄養と働き》


 世界中で親しまれているサケ。学問上はサケ・マス類(科)と呼ばれ、サケとマスの区別はありません。
 私たちがふつうサケといっているのはシロサケのこと。ほかにレッドサーモンと呼ばれるベニザケキングサーモンと呼ばれるマスノスケや、ギンザケ、サクラマス、カラフトマスなどがあり、これらはすべてサケ属の降海型に属します。降海型とは、稚魚(ちぎょ)が4cmくらいになると川を下り、海ですごして成魚となり、3~5年で元の川にもどり産卵。この母川回帰(ぼせんかいき)という本能をもつ魚のことです。
 以下に、サケ・マスの代表的なものについて説明します。
・シロサケ/一般的に、サケと呼んでいるものがコレ。体長は70cmほどで、名前のとおり身が白っぽいのが特徴。日本海側のほぼ全域と、太平洋側は銚子以北に分布する。5月~6月北洋でとれるものをトキシラズ秋口に河口付近でとれるものをアキアジと呼ぶ。
・ギンザケ/体長は75~100cmで、身の色はベニザケよりやや薄め。アメリカから受精卵を大量に輸入し、日本沿岸で養殖されている。
・マスノスケ/サケ類のなかではもっとも大きく、体長は1.5~2m。鮮やかなオレンジ色の身の色。おもに北米に分布しているが、漁獲量は多くない。日本は南米やオセアニアなどから養殖魚を輸入している。
・カラフトマス/ふつうマスとして売られている魚。背部が群青色であることから、アオマスとも呼ばれる。体長は75cmほどで、身の色は薄紅色。
・ベニザケ/体長は50~70cmで、身の色は鮮紅色。身がしまっている。北海道からカリフォルニア北部の北太平洋に分布するが、ほとんどアメリカ側が漁獲する。日本には、生もしくは冷凍輸入されるが、塩ザケや缶詰にも加工され入ってくる。スモークサーモンはこのベニザケを使ったもの。
・サクラマス/マスもしくはホンマスとも呼ばれている。ほかのサケとちがい、産卵のため川を上るときもエサをとる。味がよくなるのは、川を上りはじめる初夏。オスはくちばしが伸び「鼻まがりザケ」と呼んだりする。
○栄養成分としての働き
 サケは身が赤いので、赤身魚と勘違いされやすいのですが、じつは白身魚です。赤い理由は、アスタキサンチンというカロチノイド色素のため。この色素はカロテンの仲間ですが、ビタミンAとしての効果はありません。ただし、活性酸素に対する抗酸化作用があることで知られています。
 白身魚にしては脂質が100g中4.1gと多めです。この脂質にはIPA(イコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)を豊富に含んでいます。
 IPAとDHAは、血栓(けっせん)を予防し、血管を拡張する作用があります。また、血中の中性脂肪や悪玉コレステロールを減らし、善玉コレステロールをふやします。つまり動脈硬化心筋梗塞(しんきんこうそく)、脳卒中(のうそっちゅう)、高血圧といった生活習慣病の予防に役立ちます。そして、がんの発生を少なくし、がん細胞の転移を制御したり、抗がん剤の副作用を軽くする作用もあるといわれています。さらにDHAは、脳や神経組織の機能を支えています。
〈豊富なビタミンB群が肌荒れ、貧血を防ぐ〉
 サケはビタミンDやB群類(B1、B2、B6、B12)も豊富です。
 Dはカルシウムの吸収を高めて骨の老化を防いだり、筋肉の機能を維持する作用があります。骨粗鬆症(こつそしょうしょう)を予防したい人、幼児、高齢者、妊婦、授乳婦などにおすすめです。
 ビタミンB1は、ご飯やパン、砂糖など糖質の分解を助け、脳の中枢神経や手足の末梢神経(まっしょうしんけい)の機能を正常に保たせます。不足すると疲れやすくなり、手足がしびれてむくみ、動悸(どうき)、食欲不振、イライラなどの症状が現れます。B2は、エネルギー代謝をうながし、健康な皮膚や髪、爪などをつくります。不足すると、口内炎(こうないえん)や肌荒れ、髪のトラブルのほか生活習慣病の原因になります。B6は、免疫機能を正常に維持するうえで欠かせない栄養素で、神経伝達物質の合成や、脂質の代謝、ヘモグロビンの合成にもかかわっています。不足すると、アレルギー症状がでやすくなったり、皮膚炎、脂性(あぶらしょう)の肌、貧血、脂肪肝になったりします。B12は、葉酸(ようさん)と協力しあって赤血球の産生に働くほか、神経細胞内のたんぱく質や脂質、核酸の合成を助け、神経系を正常に働かせます。不足すると記憶力や集中力の低下、貧血、食欲不振、消化不良、下痢(げり)といった症状が現れることがあります。
〈胃腸をあたため、消化吸収を助ける〉
○漢方的な働き
 江戸時代に書かれた食養書「日用食鑑(にちようしょくかがみ)」には“中を温め気壮んにす”との記述があります。これはおなかをあたためて気のめぐりをよくし、元気にさせる効果があるという意味。つまり、昔からサケは胃腸をあたため、消化器系を丈夫にすることがわかっていたようです。
○注意すべきこと
 アレルギー体質の人がサケの皮やイクラを多食すると湿疹(しっしん)がでることがあります。また、サケの身にアニサキスという寄生虫がついている場合、腹痛や嘔吐(おうと)をもよおすことがあります。
 この寄生虫は、塩水に漬けたりマイナス20度以下で冷凍、もしくは加熱すると死滅するとされています。
 また、高血圧の人は、塩ザケを食べすぎないように注意しましょう。

《調理のポイント》


 サケは9月~翌1月ごろまで、生まれた川にもどって産卵しますが、産卵後のサケは味が落ちます。したがっていちばんおいしい時期は、産卵のために川に上った秋・冬。
 鮮度の見分け方は、1尾まるごとならウロコが銀色に光り、身に張りがあり、えらが鮮紅色のものを選びましょう。4kg前後のオスは、さらにおいしいとされています。切り身の場合は、身に白い脂肪の帯が入っていて、きれいなサーモンピンク色のものを探してください。
 サケは1尾まるごと使い切ることができる魚なので、いろいろな料理に使えます。身は生でも焼いても、フライにしてもおいしくいただけます。皮は湯引きして酢のものに、中骨はあら煮や船場汁などに、頭は氷頭(ひず)なますや三平汁、かす汁、あら煮に、腎臓(じんぞう)は塩辛(めふん)などに調理しましょう。とくに新巻(あらまき)ザケは、産卵前の内臓を抜いて塩で処理したものなので、日持ちして便利です。
 さて、IPAやDHAを有効に利用したいなら、脂質を落とさない調理法がいいでしょう。たとえば、アルミホイルで包む蒸し焼きや、小麦粉をつけて焼くムニエル、揚げものなど。汁ものにしてすべて食べるのも手です。粕汁やシチューにするとおいしくいただけます。
 もし塩ザケの塩が強すぎた場合は、焼いて身をほぐし、日本酒をふると、風味がよくなるので、お茶漬けにしていただけます。頭の軟骨は、酢につけて氷頭(ひず)なますになります。
 サケの頭にはムコ多糖類という成分が含まれているので、関節と関節のあいだをなめらかにする働きがあります。ぜひ捨てずに頭まで食べたいものです。

出典 小学館食の医学館について 情報

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