日本大百科全書(ニッポニカ) 「サクラマス」の意味・わかりやすい解説
サクラマス
さくらます / 桜鱒
masu salmon
[学] Oncorhynchus masou
硬骨魚綱サケ科に属する魚。いわゆる太平洋サケの仲間の1種である。漁業者はこれを単にマス、あるいはママス、ホンマスとよぶのが普通であるが、魚市場などでは、ときにカラフトマスをサクラマスとよぶことがある。サクラマスの分布はカムチャツカ半島南端、樺太(からふと)(サハリン)、南千島、北海道、本州の北西域、オホーツク、沿海州、朝鮮半島の東側である。北東沿岸・近海域を回遊し、降海後は北東に、冬季には反転して南西に移動するのがおもで、北洋に回遊することはない。本州沿岸の来遊南限は、太平洋側で神奈川県、日本海側で山口県であるが、ときに熊本県に及ぶ。淡水生活型のもの(ヤマメ)の分布圏は、おもに関東地方と中部地方以西の日本海側および大分県の北部を除く九州の河川上流で、アマゴの分布圏と明確に分離する。
幼稚魚では体側に鮮麗な小判形のパーマークが並び、この様相はニジマスと似る。河川生活2、3年目の春に体色が銀白化し、背びれ頂端、尾びれ末部が黒化して海に入る。この現象は銀毛(ぎんけ)化変態で、その割合は50%内外で未成熟の雌に多くおこる。河川に残留するものはヤマメ(北海道、東北地方ではヤマベとよぶ)である。海の生活1年後の春から初夏に遡河(そか)し、9月中旬から10月上旬にかなり上流の砂礫(されき)底に産卵する。場所によっては秋に遡河、産卵する群れもある。成魚は通常、全長50~70センチメートルである。体色は青緑褐色で、遡河成熟すると緑とピンクの婚姻色が現れる。1尾の卵数は約3000粒、水温8℃で約60日で孵化(ふか)する。沿岸漁業では重要魚種で、肉味はほかのサケ類に勝る。北海道では人工孵化事業の対象になっている。
[久保達郎]