日本大百科全書(ニッポニカ) 「ザ・ボディショップ」の意味・わかりやすい解説
ザ・ボディショップ
ざぼでぃしょっぷ
The Body Shop International plc
化粧品やパーソナル・ケア製品を扱うイギリスの企業。天然素材の化粧品、シャンプー、ボディソープ、スキンケア、ヘアケア製品などを中心に、世界60か国以上(2012)で製造・小売事業を展開する。植物など天然の材料を調合した化粧品販売の先駆的企業として知られる。本社はイギリスのリトルハンプトン。
[安部悦生]
沿革
ボディショップは、創業者アニータ・ロディックAnita Roddick(1942―2007)がイギリス南岸の町ブライトンに販売店を開設した1976年に始まる。この小さな店は、ダーク・グリーンを基調とする店のデザインをはじめ、中身の詰め替え販売、最小限の包装、天然成分の使用など、ほかの既存店とは様相が大きく異なっていた。開店後、店はたちまち繁盛して1年以内に2店目を開設。1978年にフランチャイズ・システムを採用、その結果毎月数店舗といったスピードで店舗を増やし、創業から20年余りで世界中に店舗網を築いた。
ボディショップの特徴は、企業理念として倫理的立場をとっていることである。天然成分の使用、中身の詰め替え販売のほか、動物実験の否定、開発途上国とのビジネス・パートナーシップ、環境保護団体への支援といった方針が知られている。同社の強い環境重視の政策は有名で、広告や誇大な販売促進策に批判的であった。1990年代なかばからその政策を変更し始めたとはいえ、なお広告会社は使っていない。また、フランチャイジー(加盟店)はボディショップ社の方針(たとえばAIDS(エイズ)教育、動物実験禁止など)を支援することが求められている。
1990年代になると、ボディショップの特徴的な手法を他社も模倣し始め、競争が激化した。天然成分を使用した類似品を製造したり、また店のデザインを似せたりと、大手企業からの挑戦が続いた。ボディショップは、店のデザインを模倣したとして、ウェクスナー社Wexnerを提訴したが、最終的には法廷外で決着した。また化粧品大手のロレアル、プロクター・アンド・ギャンブル、エスティローダーもこの市場に参入した。
そこで同社は、1994年にザ・ボディショップ・アット・ホームを設立し、訪問販売を開始。3000人以上の相談員を雇い、90万人以上の顧客に販売した。また「グリーン電力」として風力発電などを支援するほか、バース大学University of Bath(イングランド南西部エーボン州)にニュー・アカデミー・オブ・ビジネス(2005年6月、アソシエーション・オブ・サステナビリティ・プラクティショナーズとなる)を設立し、社会・環境・倫理に関するコースを設けている。さらに、顧客密着度を増すため、1999年には地域に権限を委譲して組織の分権化を進めた。
創業者アニータ・ロディックの夫ゴードンが会長を務め、アニータがマネージング・ディレクター(社長相当職)として実質的な経営を行ってきたが、業績の伸び悩みを機に両者とも2002年に辞任した。2006年、ネッスル(ネスレ)傘下のロレアルL'Oréalに買収され、その子会社となった。アニータは革新的な企業家として各種の雑誌によく取り上げられていたが、2007年に他界。ザ・ボディショップの2011年の売上げは3億2050万ポンド、営業利益は3470万ポンド、店舗数は2500以上である。
[安部悦生]
海外展開
1978年に最初の海外フランチャイズ店をベルギーのブリュッセルに開設して以来、ボディショップの店舗は急速に数を増やした。公開会社となった1984年時点で138の全ストアのうちすでに87店が海外店であったが、1992年には41か国に727店を擁するまでとなった。広告と同様に、1990年代なかばからは海外戦略も積極化し、とくにドイツ、フランス、日本をターゲットに国際展開を推し進めた。
一方、1986年に開発途上国との取引を推進する政策が採用された。「Trade Not Aid Program(援助ではなく貿易を)」として知られるこの政策は、援助ではなく、地域の自立的な発展を促すための取引を重要視している。そうした取引のパートナーとしては、南インドの村落や、ニュー・メキシコの先住アメリカ人、アマゾン地域の住民などがあげられる。また同社はグラスゴーに大規模な工場をもっているが、不振の重工業を抱えている同市に対して、同工場から得た利益の25%を寄付している。
アメリカでの最初の店は1988年に開設されたが、当初はすべてボディショップ所有の直営店であった。アメリカの消費者の動向を知る必要があったためである。1990年にアメリカで最初のフランチャイズ店開設。1993年にはアメリカ本部をノース・カロライナのローリーに置き、同国の消費者の嗜好(しこう)にあわせた製品ラインを研究している。
2012年1月時点で、日本では直営店178店舗のほか、ヘッド・フランチャイジーである小売企業のイオン・グループを通じてフランチャイズ40店舗で販売が行われている。
[安部悦生]
『アニータ・ロディック著、杉田敏訳『BODY AND SOUL――ボディショップの挑戦』(1992・ジャパンタイムズ)』▽『ポール・ブラウン著、常盤新平訳『世界を変えた6人の企業家(6) ザ・ボディショップ――アニータ・ロディック』(1997・岩崎書店)』▽『Anita RoddickBusiness As Unusual ; The Triumph of Anita Roddick(2001, Thorsons, London)』