化学辞典 第2版 「しきい値励起スペクトル」の解説
しきい値励起スペクトル
シキイチレイキスペクトル
threshold excitation spectrum
原子または分子などの標的(target)の各励起状態のしきい値に等しい電子エネルギーをもった衝撃電子は,その相互作用によってまったくエネルギーを失い,ほぼ0 eV のエネルギーに減速される.入射電子エネルギーを変化させて標的に衝撃し,0 eV に近く減速された電子のスペクトルがしきい値励起スペクトルであり,電子衝撃によって得られる励起関数を微分したものに等しい.エネルギー分解能の高い電子で衝撃すれば,電子励起とともに振動励起のエネルギーも測定しうる.光電子スペクトルはエネルギー分解能は高いが,光による禁制遷移を観測しえない点でしきい値励起スペクトルに劣る.しきい値励起スペクトルの測定法には2種類あり,一つは静電場電子捕そく法(trapped-electron method),一方は熱電子捕獲する分子の負イオンを検出する電子捕そく剤法(electron scavenger method)である.前者は,電子流の軸に垂直に弱い静電場の井戸(potential well)をつくり,減速電子だけを検出する方法で,後者は,主として SF6 を使用して,次の過程で生成する SF6- イオン流を入射電子エネルギーを変化させて質量分析計で検出する.
e + AX → AX* + eth
eth + SF6 → SF6-
(eth は熱化電子)
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報