質量分析計(読み)しつりょうぶんせきけい

精選版 日本国語大辞典 「質量分析計」の意味・読み・例文・類語

しつりょう‐ぶんせきけいシツリャウ‥【質量分析計】

  1. 〘 名詞 〙 イオン化された原子質量を測定する装置。電場と磁場の中を走らせることにより、質量の等しいものは同一点に集まるように作った器械同位体の分析や化合物の分析に用いられる。質量分析器質量分光器

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化学辞典 第2版 「質量分析計」の解説

質量分析計
シツリョウブンセキケイ
mass spectrometer

イオンを電磁気的に質量分離し,質量別にイオン量を測定する機器の総称.質量分離したイオンを同時に写真乾板上にスペクトルとして記録する機器をとくに質量分析器という.その原理から同位体比の測定には不可欠であるが,種々なイオン化法を利用したイオン源を使用することにより,気,液,固相を問わず広く混合物の定量分析に使用されている.地球の高空圏を含め,宇宙空間のイオンや原子・分子などの測定のため,人工衛星に積み使用している.有機化合物はイオン化によりその構造を反映する一定の種々なイオンを生成するので,これを利用して有機化合物の構造決定に利用され,さらにガスクロマトグラフィーと組み合わせたガスクロマトグラフィー質量分析計により,多成分の混合物の分析が行われている.分析以外にもイオン-分子反応,放電,燃焼などの機構の解明など,その応用範囲は広い.もっとも普及している質量分離法は磁場単収束型であるが,それ以外に簡便な四重極質量分析計飛行時間型質量分析計高周波質量分析計,イオンサイクロトロン共鳴(ICR)質量分析計などが目的に応じ使用されている.オメガトロンも質量分析計の一種であり,高分解能が必要な場合に二重収束質量分析計も使用されている.磁場単収束型の原理は,均一磁場(強さHガウス)中で一定の速度をもつイオンが,質量に応じた半径(r cm)の円運動をすることを利用したものである.1916年,A. Dempsterが180°扇形磁場のものを製作し,1940年,A.O. Nierが図に示した60°扇形磁場を使用したものが基礎となっている.

図の左方のイオン源で生成されたイオンは,加速電圧V(ボルト)で右のほうへ加速され磁場に入射する.ここで,イオンはフレミングの左手の法則で円軌道にまげられ,磁場を出て直線運動をし,検出器に到達する.イオンの原子質量単位での質量をm電荷eとすると次の関係がある.

235 Uイオンを2000 V で加速し,5000ガウスの磁場に入射した場合,rは19.8 cm となる.構造上rは固定するほうが都合がよいので,HまたはVを一定として,それぞれVまたはHを変化させ質量スペクトルを得ている.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「質量分析計」の意味・わかりやすい解説

質量分析計
しつりょうぶんせきけい
mass spectrometer

広義には物質を分子や原子などの荷電粒子に変えて,それらを質量電荷比 m/e によって分離し,質量スペクトルとして検出する機器。原理的には,イオン源,分析部,および検出系から成るが,実際の装置では試料導入系とデータ処理系も重要である。真空中を運動させた荷電粒子やイオンの軌道は適当な電場 (エネルギーに対して) や磁場 (運動量に対して) ,またはその両者の組合せにより,イオンの m/e によって分離できる。イオンビームに対して磁場を適切に配置すれば,イオンは m/e ごとに分散するばかりでなく,特定 m/e イオンごとに集束できる。イオン光学の発展によって,原子質量単位の 1000分の1程度以下の微小質量差も区別して検出可能となっている。質量分析器では,乾板などで分散集束した各イオンを同時に検出する。これは一般に高分解能質量スペクトルやイオン強度の時間的変化が著しい場合に有利である。これに対して狭義の質量分析計では,分離した諸イオンを次々に走査して電気量として検出する。これはイオン相対強度 (同位体比など) の精密測定に有利である。歴史的には J. J.トムソンによるパラボラ型陽極線分析器が実用化の最初である。現在では磁場偏向 (単集束) 質量分析計,電場と磁場を組合せて方向だけでなくエネルギーの広がりも許容できる二重集束質量分析計,イオンサイクロトロン共鳴質量分析計,四極子に静電場高周波電場を重畳させるマスフィルタ,粒子速度を測定して質量を決定できる飛行時間型質量分析計などの種類がある。またガスクロマトグラフィーと直結させた装置がある。一般に装置は比較的大型となるが,宇宙空間や惑星試料分析用としてロケットに搭載可能なほど小型にもできる。真空漏れ発見に使用するものはリークデテクター,また同位体など物質分離に使用するものは質量分離器という。イオンマイクロアナライザーやマスアナライザーも質量分析計の一種である。 (→質量分析 )  

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百科事典マイペディア 「質量分析計」の意味・わかりやすい解説

質量分析計【しつりょうぶんせきけい】

質量分析器の一種で,イオンの存在比を測定する装置。質量分析器が磁場により質量別に分離したイオン流を写真乾板に受け質量スペクトルを直接撮影するのに対し,質量分析計では集イオン電極にイオン流を受けその電流強度を測定し存在比を決定するもの。集イオン電極を固定し,磁場を変化させて質量スペクトルを移動させ,各質量ごとのイオン存在比を順次測定する。同位元素の存在比測定のほか,一般の定量分析にも広く応用され,微量の試料で精密測定ができるので,工業分析やプロセス制御にも盛んに用いられる。
→関連項目質量スペクトル定量分析

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栄養・生化学辞典 「質量分析計」の解説

質量分析計

 試料をイオン化し,質量/電荷に従って分離して,分離されたものを電気的に検出する機械.

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世界大百科事典(旧版)内の質量分析計の言及

【重量分析】より

…また質量測定には限界があり,あまり微量の成分の定量には有効ではない。 質量分析計mass spectrometerは電場,磁場を用い物質のe/m(電荷と質量の比)を利用して定量する方法であるが,イオン電流として信号を取り出すことができるので,最近は微量ないし超微量の成分を測定する絶対分析法として利用されるようになった。【綿抜 邦彦】。…

※「質量分析計」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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