スピロヘータ(読み)すぴろへーた

日本大百科全書(ニッポニカ) 「スピロヘータ」の意味・わかりやすい解説

スピロヘータ
すぴろへーた
[学] Spirochaeta

糸状で屈曲性のある螺旋(らせん)状の単細胞の細菌で、スピロヘータ目の1属。長さ5~250マイクロメートル、幅0.2~0.75マイクロメートル(1マイクロメートルは100万分の1メートル)で、嫌気性または通性嫌気性である。通常、カロチノイド色素を生産する。細胞壁は柔軟で、細胞は細胞壁の伸縮とともに軸を中心とする非常に速い回転運動を行う。硫化水素を含んだ汚泥や汚水・廃水中に生活し、寄生性はない。化学合成有機酸化生物の一つで、炭水化物を発酵させる性質をもつ。

 なお、一般にスピロヘータという場合は、病原性のあるトレポネマ属Treponema(スピロヘータ目の1属)をさして使われるが、分類学的には誤用といえる。トレポネマ属のうち、とくに有名なのが梅毒菌T. pallidumで、この細菌は長さ6~20ナノメートル、幅0.13~0.15ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)とスピロヘータより小形である。また、細胞の先端がとがり、両端に数本の鞭毛(べんもう)がある点もスピロヘータ属の性質と明らかに異なっている。もう一つの大きな相違点は、トレポネマ属が動物に対して絶対寄生性をもつことである。とりわけ、梅毒菌はヒトに対して強い病原性を示す。

[曽根田正己]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スピロヘータ」の意味・わかりやすい解説

スピロヘータ
spirochaete

スピロヘータ目の細菌群。 1838年 C.G.エーレンベルグが発見。病原性のあるものとしては,1873年に O.オーバーマイアーが回帰熱患者の血液中に発見したのが最初である。現在約 50種が知られている。細胞は細長い螺旋状で,著しい屈伸性を示す。グラム陰性で,芽胞をつくらない。自然界に広く分布しており,多くは死物寄生性で土,水,腐敗物中に生息しているが,動植物やヒトの体内や体表で共生を営むものもある。梅毒の病原体となるスピロヘータ (トレポネーマ・パリダム) がよく知られており,その他,フランベジアワイル病などの病原体となるものもある。一般に 10%胆汁酸塩によって溶解され,ペニシリンなどの抗生物質やヒ素剤,蒼鉛剤などに対して感受性が強い。

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