ハジラミ(その他表記)chewing louse
biting louse

改訂新版 世界大百科事典 「ハジラミ」の意味・わかりやすい解説

ハジラミ (羽蝨(虱))
chewing louse
biting louse

ハジラミ目Mallophagaに属する寄生昆虫総称触角の長さで長角ハジラミと短角ハジラミに大別する。食毛類とも呼ぶ。鳥の羽毛や獣の体毛の中で生活し,小型で扁平,眼は退化し翅はない。成虫の体長は0.5~10mmで雄は雌より少し小さい。体色は白色,黄色,褐色,黒色と種によってさまざまである。大部分が鳥類の外部寄生虫で鳥類のすべての目(もく)に寄生し,一部は哺乳類にも寄生する。全世界で2800種ほどが知られ,うち250種が日本から記録されている。ハジラミはシラミに似るが胸部の各節は完全に癒合することはなく前胸部は明らかに分かれる。肢の跗節(ふせつ)は1~2節で,先端に1個または1対のつめがある。体表は剛毛に覆われ,多いものと比較的少ないものがある。また口器はシラミと違って吸収型でなくそしゃく型で大あごが発達する。宿主の羽毛,体毛と血液を摂取するがフクロマルハジラミMenacanthus stramineusのように血液を成長中の羽毛の軸からとる種もある。ペリカンカツオドリの咽喉(いんこう)の袋にはペリカンハジラミ属Pelecanusやピアージェハジラミ属Piagetiellaが寄生し,大あごで皮膚を刺し,血液や粘液を摂取する。

不完全変態で,卵→若虫→成虫となる。卵は長卵型でふつう白く,宿主の大きさに対応し,1mm以下から2mm近いものまである。卵は宿主の羽毛か毛に産みつけられるが,羽軸内に産みこむものもある。若虫は成虫に似ており,1齢若虫では小さく色素をもたないが,脱皮ごとにしだいに大きくなり着色し3齢を経て成虫となる。ハジラミは温度や宿主のにおいに敏感で,適温は宿主の体表温度である。宿主が死に体温が下がるとハジラミは宿主から脱出しようとする。宿主が死ぬとハジラミも数日内に死ぬ。ハジラミの感染は交尾,巣づくり,雛の養育,砂あびなど宿主間の接触で起こる。もう一つの方法は翅のある昆虫に〈便乗〉することで,吸血性のシラミバエの体に大あごでしがみつき他の鳥に運ばれる。自然の集団では雌が多く,ある種では雄がほとんど見つからない。ウシハジラミDamalinia bovisでは処女生殖が知られている。前胃にハジラミの断片が見つかることがあるが,この共食いの現象は個体数の調節に役だつのであろう。ハジラミの最大の天敵は宿主であって,ついばみ,毛づくろい,砂あびによって殺される。また鳥の蟻浴(ぎよく)も同様の効果がある。くちばしを痛めた鳥は十分毛づくろいができないので非常に多数のハジラミの寄生をうけ弱る。哺乳類のハジラミは有袋類,霊長類,齧歯(げつし)類,食肉類,イワダヌキ類および有蹄類に寄生し皮膚の分泌物やあかを食べているが,トリハジラミほど多くはない。

ハジラミの祖先は原始チャタテムシで,自然の中でコケやカビを食べ自由生活をしていた昆虫が,三畳紀,ジュラ紀から古第三紀の間に鳥の羽毛にとりつき寄生するようになったと考えられるが,化石は発見されていない。ある種のハジラミは2種以上の鳥に寄生することがあるが,それは鳥の進化の速さがハジラミのそれを上まわったためかも知れない。これをケロッグV.L.Kelloggは“遅滞進化”と名付けたが,宿主が環境に適応して変化しても,ハジラミの生活環境としての鳥体の寄生条件,食物,温度はあまり変化しないからである。例えばアフリカのダチョウと南アメリカのレア(アメリカダチョウ)には共通のハジラミが寄生しており,今日形態も分布も異なっているとしても,これらのダチョウは共通の祖先から分化したことを物語っている。ミズナギドリの仲間には16属124種のハジラミが知られているが,ハジラミの知見は大筋においてミズナギドリの分類系と一致するといわれている。アフリカゾウ,インドゾウなどに寄生するゾウジラミは体長3mmたらずの小さなシラミで,長い吻(ふん)をもち吸血するが,その先端に大あごをもち完全にハジラミの形態をそなえており,ハジラミとシラミの間を結ぶ中間型とされる。

ハジラミが多数寄生すると鳥や獣はいらだち体をかきむしり体を痛め,食欲不振や不眠をきたす。家禽(かきん)は産卵数が減り太らなくなり,ヒツジは良質の羊毛をつくらなくなる。ニワトリハジラミはニワトリに寄生するハジラミ類の総称で,畜産上ニワトリナガハジラミ,ハバビロナガハジラミ,ニワトリマルハジラミ,ヒメニワトリハジラミの4種が重要である。そのほか,ニワトリハジラミ(この類の1種)やニワトリオオハジラミも寄生する。これらはいずれも世界共通種である。キジ目の中には家禽となるものが多いが,同目のニワトリと近縁であるからいっしょに飼えばハジラミの混入が生ずる。シチメンチョウオオハジラミはその一例である。多数寄生すればニワトリは羽毛がたべられかゆみのため体力が弱まり,成長が遅れ産卵率の低下をみる。防除には殺虫剤を使い,鶏舎内を清潔に保つことが必要である。イヌハジラミ,ネコハジラミはウリザネジョウチュウの中間宿主となる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハジラミ」の意味・わかりやすい解説

ハジラミ
はじらみ / 羽蝨
bird louse
biting louse

昆虫綱ハジラミ目Mallophagaに属する昆虫の総称。食毛類(食毛目)ともいう。鳥類や一部の哺乳(ほにゅう)類の外部寄生虫で、羽毛や毛につく微小なシラミのような昆虫。扁平(へんぺい)、無翅(むし)で、体長は数ミリメートルのものが多いが、なかには7、8ミリメートルのものもいる。全体にシロアリを押しつぶしたような形態である。色は淡褐色ないし濃褐色。頭部は大きく、三角形または台形で、後頭部はとくに幅広い。触角は退化し短く、3~5節。口器はかむ型で、羽毛などをかじるが、吸血する種もある。目は退化している。胸部は2節が認められ、前胸は明らかであるが、中・後胸は癒合し、節の境界線の残存しているものもある。脚(あし)は短く、つめは0~2本。脚の先は羽毛や毛をつかむのに適した形になっている。体表には後方を向いた長毛が配列し、羽毛の間をくぐりやすくしている。卵は寄主の体毛に産み付けられ、幼虫にはほとんど変態が認められない。系統的にはチャタテムシ目と近縁である。

 世界に10科2700種ほどが知られ、このうちの約10%が日本からも発見される。ニワトリハジラミMenopon gallinaeはニワトリに、ハトナガハジラミColumbicola columbaeはハトに、ゾウハジラミHaematomyzus elephantisはアジアゾウやアフリカゾウに、というようにそれぞれ寄生する。例外もあるが、一般におのおのの鳥の種には固有のハジラミのつくことが知られている。

[山崎柄根]

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百科事典マイペディア 「ハジラミ」の意味・わかりやすい解説

ハジラミ

ハジラミ目(食毛目)に属する昆虫の総称。微小種ばかりで,体長5mmを超す種類は少ない。扁平,薄茶色で,無翅。主として鳥類,一部は哺乳(ほにゅう)動物に寄生し,羽毛,毛,または皮膚の脱落片などを食べるが,直接吸血することはない。全世界に約2500種。種類によって寄主は一定している。一部を除いて人間生活に関係ある種類は少ないが,ニワトリハジラミなどはニワトリの産卵能力を低下させ,養鶏上の害虫とされる。

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