発疹チフス(読み)はっしんちふす(英語表記)typhus

翻訳|typhus

日本大百科全書(ニッポニカ) 「発疹チフス」の意味・わかりやすい解説

発疹チフス
はっしんちふす
typhus
epidemic typhus

「ほっしんチフス」ともいい、高熱頭痛発疹を主要症状とする急性感染症で、日本では感染症予防・医療法(感染症法)により4類感染症に分類されている。かつては検疫伝染病(検疫感染症)で、1969年7月以来、WHO(世界保健機関)の保健規則では国際監視伝染病の一つであった。病原体の発疹チフスリケッチアRickettsia prowazekiiコロモジラミアタマジラミによって媒介されるため、衣類の不潔や入浴の不自由などシラミの繁殖に好条件が与えられると爆発的に流行し、とくに戦争で戦場にいるときはこの条件が満たされて大流行となるところから、戦争チフスなどの別名でもよばれてきた。第二次世界大戦でも世界各地で流行し、日本でも1943年(昭和18)から患者が急増し、戦後の46年には患者数3万2000人、死者3000人に及ぶ大流行をみた。当時、東京では駅の改札口を通る人の襟や袖口(そでぐち)にシラミ退治のDDTの白い粉を噴霧するなどの予防対策も実施されたが、生活環境が改善されて流行は下火となり、1957年以降は患者の発生がない。

 病原体は患者の血を吸ったコロモジラミの糞(ふん)に排出され、これが健康者の皮膚の刺傷やかき傷から侵入して感染する。潜伏期間は10~14日。急に悪寒とともに発熱し、3日ほどで40℃前後の高熱となり、頭痛、関節痛、結膜充血などのほか、直径2ミリメートル前後の赤くて細かい発疹が全身に多数現れる。症状は腸チフスに似ているが、ワイル‐フェリックス反応とよばれる血清反応鑑別される。クロラムフェニコールテトラサイクリンなどの抗生物質が特効的に効くので致命率は低い。しかし、60歳以上の患者は予後不良のことが多い。また、抗生物質は解熱後2~3日まで投与する。シラミの駆除が予防上重要で、予防接種も有効である。

[柳下徳雄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「発疹チフス」の意味・わかりやすい解説

発疹チフス
はっしんチフス
epidemic typhus fever

「ほっしんチフス」ともいう。感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律で4類感染症と定義される。旧伝染病予防法による法定伝染病の1つ。リケッチア Rickettsia prowazekiiを病原体とし,コロモジラミが媒体。冬の終りから春にかけて発病することが多い。平均 11日の潜伏期ののち,高熱とともに激しい頭痛,四肢痛などの全身症状が現れる。特有の淡紅色の小発疹は第4~6病日頃から腹部を中心に現れ,全身に広がる。熱は稽留熱で,高熱が持続する。発疹は7~10日目頃から消失する。治療には抗生物質のテトラサイクリンとクロラムフェニコールが有効で,予防ワクチンがある。発疹熱との鑑別を要する。近年,文明国には発生しておらず,国際検疫病からは除外されている。

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