鎌倉時代の説話集。橘成季(たちばなのなりすえ)編。1254年(建長6)成立。20巻。序において,編者みずから本書を《宇治大納言物語》《江談抄》を継承するものとして位置づけ,〈実録(正統の歴史)〉を補おうとする意気ごみを述べている。跋(ばつ)には,詩歌管絃の秀逸な説話を集めて絵にのこそうとしたものが発展して本書となった,と説かれる。貴族社会の逸話・奇異談697話を30編に分類し,各編の冒頭に編目の解説を付す。全体の構成は中国の類書に似る。30編の編目は次のとおり。神祇(じんぎ),釈教(しやつきよう),政道忠臣,公事(くじ),文学,和歌,管絃歌舞,能書,術道,孝行恩愛,好色,武勇(ぶよう),弓箭(きゆうせん),馬芸,相撲強力(すもうごうりき),画図,蹴鞠(しゆうきく),博奕(ばくえき),偸盗(ちゆうとう),祝言(しゆうげん),哀傷,遊覧,宿執(しゆくしゆう),闘諍(とうじよう),興言(きようげん)利口,怪異(けい),変化(へんげ),飲食(おんじき),草木,魚虫禽獣。貴族社会の全体像を説話によって描き出したものといえる。とくに,文学より偸盗にいたる諸編は,文芸,武芸,雑芸を収録し,跋に説かれた成立事情とともに,編者の才芸重視の姿勢を示すものである。収録説話は,王朝貴族社会の価値観に立つものが多いが,〈街談巷説の諺(ことわざ)〉を資料として,王朝貴族社会の枠を超えた,新しい中世的人間像をも描き出している。とくに,笑話集である興言利口編には,猥雑な,躍動的な中世的人間の登場する説話が多く収録され,本書の特徴となっている。
執筆者:出雲路 修
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鎌倉時代の説話集。20巻。橘成季(たちばなのなりすえ)編。1254年(建長6)成立。約700話の短章を、30編に分類して編集する。その編目は、神祇(じんぎ)、釈教、政道忠臣、公事、文学、和歌、管絃(かんげん)歌舞、能書、術道、孝行恩愛、好色、武勇、弓箭(きゅうせん)、馬芸、相撲強力(すまいごうりき)、画図、蹴鞠(しゅうきく)、博奕(ばくえき)、偸盗(ちゅうとう)、祝言、哀傷、遊覧、宿執、闘諍(とうじょう)、興言利口(きょうげんりこう)、恠異(かいい)、変化(へんげ)、飲食(おんじき)、草木、魚虫禽獣(きんじゅう)と多岐にわたり、収める説話も多彩。序文に、院政期の貴族説話集『宇治大納言(うじだいなごん)物語』(散逸)、『江談抄(ごうだんしょう)』を継承するものであると明言するとおり、中古の貴族社会とその周辺のできごとを話題の大半とし、王朝貴族社会とその文化に対する賛美や憧憬(しょうけい)のことばを随所に漏らしており、尚古思想を全体の基調としている。しかし一方で、笑話を集めた「興言利口篇(へん)」などには、著しく卑俗で猥雑(わいざつ)な「街談巷説(こうせつ)」の世界への傾斜が目だち、王朝文化の枠を踏み出した新しい中世的人間像を描き出している。
[小島孝之]
『永積安明・島田勇雄校注『日本古典文学大系84 古今著聞集』(1966・岩波書店)』
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鎌倉中期の説話集。20巻。橘成季(なりすえ)編著。1254年(建長6)成立。神祇・釈教・政道・忠臣・公事・文学など30の編目で697話を収め,うち約80話は「十訓抄(じっきんしょう)」などからの後人による増補。序と跋を備え,跋文に勅撰集をまねて撰進後の宴を催すとあるなど,編纂への明瞭な意思がみえる。各編は,編目について「そのことのおこり」を説く小序をおき,跋文によれば以下年代順に説話を配する。編成の整備,実録重視の姿勢,雅俗にわたる取材には百科全書的性格がある。過去にさかのぼり編目を意味づけ,話題に歴史的な展開を確かめて現在を相対比する点,話題が日本の出来事に限られているところなどに,現実認識への行為性やイデオロギー的な自国意識がみられる。「日本古典文学大系」「日本古典集成」所収。
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