改訂新版 世界大百科事典 「シンシャ」の意味・わかりやすい解説
シンシャ(辰砂) (しんしゃ)
cinnabar
朱砂,丹砂(たんさ),あるいは円朱ともいう。水銀資源として最も重要な鉱物。化学成分HgSで黒シンシャmetacinnabarとは多形の関係にある。三方晶系。自形は菱面体状ないし厚板状であるが,塊状,土状集合体をなすことが多い。結晶片はダイヤモンド光沢,深紅色透明であるが,細粒集合体は亜金属光沢,暗褐赤色をなす。モース硬度2~2.5,比重8.1。{10 0}に完全なへき開がある。粉末は朱紅色で,空気中でも変色せず,古くから顔料として珍重されてきた。低温熱水性の鉱脈鉱床,鉱染鉱床中に,黄鉄鉱,白鉄鉱,輝安鉱,石英などに伴われて産出する。また火山昇華物,温泉沈殿物,水銀鉱床の露頭部より移動堆積した砂鉱床としても見いだされている。スペインのアルマデン,ユーゴスラビアのイドリヤ,イタリアのモンテ・アミアタなどが重要な鉱山である。日本国内には北海道イトムカ鉱山,奈良県大和水銀鉱山などがあったが,現在はいずれも稼行されていない。なお,陶磁器では表面の透明なガラス質の下に銅呈色の紅色を着彩したものをいい,中国では釉裏紅(ゆうりこう)という。
執筆者:青木 正博
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報