地殻中で有用な元素・鉱物・岩石、それに石油・天然ガスなどの地球資源がとくに濃集した地質集合体をいう。地球資源は、われわれが日常生活でごく普通に使用しており、人間の生活・繁栄には必要不可欠なものである。金、銀、銅、鉛、亜鉛、錫(すず)、タングステン、鉄のような鉱物に含まれ有用元素を対象とする金属元素資源、粘土や沸石(ふっせき)などの有用鉱物を対象とする鉱物資源(工業用鉱物資源または非金属資源ともいう)、花崗(かこう)岩や石灰石などの土石資源、それに石炭、石油、天然ガスのエネルギー資源などさまざまある。ところで、これら地球資源が、地殻中のどこに、どのような状態で存在し、どのような場合に採取・採掘されるのかということは一般には知られていない。あらゆる地球資源物質は、地殻のさまざまな岩石中に含まれている。一般にそれらの平均濃度はクラーク数として表示されている。ところが、地殻中での平均濃度はきわめて低く、普通の岩石からこれら有用資源を回収することは経済的に採算のあわないことになる。これらの資源が経済的に回収可能であるためには、地殻中に有用元素・鉱物やエネルギー資源物質がかなりの濃度で濃集している必要がある。これらが濃集した場所が鉱床であり、鉱床は異常濃集体の部分と定義できる。鉱床自体は、この意味で特殊な地質体ということもできる。また、有用物質の濃集の度合い(濃集度)がどの程度であれば鉱床とよべるかは、元素の地殻存在度との比率や社会の需要度、それにその国の経済発展の度合いやインフラストラクチャー(社会的生産基盤)など種々の社会経済的・技術的要因が関連して決められる。鉱床と認定された地質体領域がそのときの経済性評価によってさらに狭い領域に縮小されたり、あるいは広くなったりもする。また、技術革新などにより新たな資源素材を採掘対象とした鉱床の登場ということもある。
[今井直哉・金田博彰]
鉱床は、鉱石と鉱床母岩より構成される。鉱石は有用な元素および鉱物などが濃集する地質集合体であり、鉱床母岩は鉱石の周縁部および近傍に分布する岩石である。鉱石は、有用元素・鉱物が濃集する鉱石鉱物と鉱床生成過程で形成した脈石鉱物(みゃくせきこうぶつ)とよばれる不用な鉱物よりなる。この脈石鉱物は、鉱床母岩を含むこともある。鉱石の価値は、有用元素および鉱物の含有量を重量パーセントまたはグラム/トンで示し、これを鉱床品位という。採掘可能な鉱床品位で最低品位をカットオフグレードcut-off-gradeという。最低採掘品位は、当事国の経済状態、世界の経済状態、技術的条件、インフラストラクチャーなどさまざまな条件が関連して決められる。鉱床にはこのような金属鉱物や元素の濃集によるもののほかに、粘土・陶石や石灰石、それに花崗岩などの岩石固体物質を採掘対象とするもの、また石油、天然ガス鉱床のように炭化水素類が流体として地層中に集積・貯溜(ちょりゅう)されたものもある。
現在でも、アフリカ大陸とアラビア半島に挟まれた紅海の海底の窪(くぼ)みや大洋の海嶺(かいれい)では多量の金属硫化物を含む堆積(たいせき)物が沈殿し、かつ陸域の地熱地帯でもこの現象が認められる。また、日本の北海道の火山地帯(知床(しれとこ)半島)において、硫気孔から間欠的に硫黄(いおう)溶融体が流出し現世の溶流型硫黄鉱床を形成した例も知られている。また、中央海嶺近傍の熱水噴出帯ではブラックスモーカー、ホワイトスモーカーとよばれる流体が噴出孔より出て、それぞれ鉄硫化物を主体とした鉱物、ケイ酸塩・炭酸塩を主体とした鉱物が形成されつつある。しかし、鉱物・エネルギー資源鉱床の大部分は、46億年にわたる地球がたどった長い歴史の過程のなかで、マグマ作用、熱水作用、堆積作用、変成作用の地質作用により形成された歴史的産物である。鉱床もしくは鉱石の定義には、既述の特殊な地殻構成物質(特殊岩石)という地球科学的観点にたった基本的概念のほかに、それが利潤をもって開発、利用できるという前提がある。したがって、それらの定義は、人間社会における社会的要因による変数に左右される。たとえば金属や原油の価格変動、鉱床のもつ立地条件などの経済的要因や、開発技術や鉱石処理技術の発展がそれである。かつて鉱床としての地位をまったく認められなかったところが現在重要な鉱床となったもの、これとは逆に、かつて鉱床として盛んに開発されていたところが現在まったく顧みられなくなったもの、また高品位の鉱石の鉱床でありながら技術的問題が未解決なため未開発のまま放置されているものがある。
近年になり経済的価値が上昇した鉱床例として、現在世界の銅供給源として重要な役割を果たしている斑岩銅鉱床(はんがんどうこうしょう)があげられる。斑岩銅鉱床は大規模であるが、鉱石の銅品位が低く「巨大低品位鉱床」とよばれている。この鉱床は19世紀にはまったく採掘されていなかったが、20世紀に入り比較的高品位の鉱床、あるいはその高品位部分から開発が進められ、1950年代以降は銅品位が0.5ないし1.0%の低品位部も鉱石として採掘されるようになった。その理由は、鉱床が巨大であるということのほか、鉱床が比較的地下浅所に位置する自然条件に対応して、大型重機械の導入による大規模露天掘り採掘が可能となり、十分利潤があげられるようになったからである。
[今井直哉・金田博彰]
鉱床の分類は、人間社会の目的および産業における用途別などの立場から、金属鉱床、非金属鉱床、燃料鉱床に大別される。また、経済的・法律的立場(たとえば鉱業法による鉱種の区別)から金属鉱床は金・銀・銅・鉛・亜鉛・錫(すず)などに、非金属鉱床は硫黄(いおう)・石灰石・ドロマイト(苦灰石)・珪(けい)石・蛍石などに細分される。燃料鉱床はさらに有機燃料と核燃料に区分され、前者は石炭・石油・可燃性ガスに、後者はウラン・トリウムに細分されている。これらの分類は便宜的なものであるから、しばしばいくつかの問題がおこる。たとえば、ドロマイトは製鉄・製鋼工業やガラス工業で利用されており、ドロマイト鉱床は普通、非金属鉱床に分類されているが、これから金属マグネシウムを回収することもあり、この場合には金属鉱床に入る。核燃料鉱床の主力であるウラン鉱床は、金属鉱床に分類されることもある。
もう一つの鉱床の分類として、鉱床の成因に着目した分類法がある。すなわち、鉱石と周囲の岩石との地質作用の関係より、マグマ成鉱床、熱水成鉱床、堆積成鉱床、変成鉱床の四つに大別できる。これらはさらに後述のように細分される。また、鉱床はこれを取り囲む岩石(母岩)との成因的関係に基づいて、同生鉱床、後生鉱床に大別することがよく行われている。周囲の岩石の生成と同じ時期に生成した鉱床を同生鉱床といい、周囲の岩石の生成後に生成した鉱床を後生鉱床という。
鉱床の成因形式による分類は、16世紀の中ごろドイツの鉱山学者アグリコラが最初に行って以来多くの研究者により試みられてきたが、その分類は各研究者によりかなり異なっている。それは研究者ごとの鉱床の産状に対する認識、地質現象の理解や解釈の仕方、および鉱床生成の諸条件・要因における重点の置き方の相違によって生じる。すなわち、アメリカの鉱床学者リンドグレンによる分類は鉱床生成の深度に基準が置かれ、またスイスの地質学者・地球化学者ニグリの分類は、イギリスの岩石学者ケネディW. Q. Kennedy(1903―1979)による火成活動の火山、深成の2系列を目安としている。ドイツの鉱床学者シュナイダーヘンH. Schneiderhöhn(1887―1962)は、成因を同じくする鉱石中の鉱物共生の特徴を基準にして地殻の構造発達史の基礎にたって鉱床の成因分類を行った。
[今井直哉・金田博彰]
マントル上部あるいは地殻下部で発生したマグマ(珪酸塩溶融体)は地殻上部に上昇貫入し、冷却・固結する。冷却の過程で多種な鉱物を晶出するとともに、マグマ残漿(ざんしょう)中には水や炭酸ガスなどの流体物質が濃集していく。マグマ成鉱床はこのようなマグマ活動(火成活動)に関連した地質作用により生成した鉱床であって、(1)正マグマ鉱床(含カーボナタイト鉱床)、(2)ペグマタイト鉱床、(3)気成鉱床に細分される。
(1)正マグマ鉱床 マグマの冷却の過程で不混和による硫化物マグマとケイ酸塩マグマの分離、もしくはマグマ結晶分化作用による結晶の沈積・濃集により生成した鉱床である。前者の鉱床例としてはカナダ、サドベリーのニッケル・銅鉱床、後者の例として、ザンビアのグレートダイクのクロム鉱床、南アフリカのパラボラの白金鉱床などがある。ダイヤモンドを含みパイプ状形態を示すキンバレー岩は、結晶とガスに著しく富んだ「マグマ」として100~200キロメートルの深さから上部マントルと地殻を通り抜け地表に達したダイアピルdiapirとよばれる特徴的な地質構造を示す。これも正マグマ鉱床に入れられている。また、アルカリ岩複合岩体に伴うカーボナタイトは炭酸塩を主とする溶融体から晶出したと考えられており、このなかのニオブや希土類元素を含むカーボナタイト鉱床も正マグマ鉱床に分類される。
(2)ペグマタイト鉱床 マグマの固結が進み、晶出した鉱物が増えるにつれて、マグマの中に含まれていた水・炭酸ガスを主とする揮発性成分がしだいに残存マグマ(残漿)に濃集し、流動性に富むようになり、圧力も上昇する。この時期をペグマタイト期とよび、希元素が揮発性化合物として残漿中に濃集する。このような流動性に富んだ残漿が地殻の比較的深部の割れ目に侵入し徐々に固結して生じたのがペグマタイト鉱床である。
(3)気成鉱床 ペグマタイト鉱床中でマグマの固結がさらに進み、珪酸塩鉱物の晶出が終わると、揮発性成分が最大量に達し、有用金属を溶かした高温流体の圧力は最大になる。このようにして生じた高温流体が花崗(かこう)岩頂部や地殻の割れ目に侵入して生成したのが気成鉱床である。
[今井直哉・金田博彰]
マグマ残漿(ざんしょう)の(最終)高温流体が活動する気成期を過ぎて天水の混入などにより温度が降下すると、流体はさまざまな金属元素、非金属元素を溶かし込んだ熱水(溶液)となる。この時期を熱水期とよび、この時期にできた鉱床を熱水成鉱床という。熱水性鉱床、熱水鉱床ともいう。安定同位体地球化学の研究より、水素、酸素、炭素、硫黄(いおう)の安定同位体の知識が鉱床学研究に広く取り入られるようになった。その結果、鉱床生成に関与した熱水の起源の問題が論議されるようになり、熱水はマグマ水ばかりでなく、地下深部に浸透した地表水や、地層中に閉じ込められた化石水が、マグマ活動により加熱されたものもあることが、しだいにわかってきた。また、鉱石を形成する元素の供給もすべてがマグマ由来ではないということも安定同位体の研究より支持されている。すなわち、地殻内部に発生した熱水は上昇の過程で、周囲の岩石から鉱石成分を選択的に溶脱して取り込み、この熱水から鉱石が沈殿すると考えられるようになり、熱水系における流体と岩石との相互作用が重視されるようになった。また、地下水が熱水の中に混入することにより熱水の温度低下現象が生じ、元素濃度が高くなった熱水から諸鉱物の沈殿・集積が行われ、有用元素・鉱物が随伴することによって熱水成鉱床が形成される。鉱床構成元素を含む熱水は、鉱化流体あるいは鉱液ともよばれる。
地殻深部で生成した熱水は高温で密度が小さいため地表に向かって上昇する。上昇する過程で温度の低下や圧力の低下などの物理・化学的要因により鉱床が生成する。この際、熱水の通路の地質構造や地質の種類によりさまざまな型の鉱床が形成される。すなわち、(1)鉱脈型鉱床、(2)スカルン型鉱床、(3)斑岩型鉱床、それに(4)火山噴気鉱床に細分できる。
(1)鉱脈型鉱床 熱水または鉱化流体が、地殻中の割れ目に侵入し、そこで鉱物の沈殿・集積が行われると、鉱脈型鉱床ができる。また、生成する地下深度により深熱水成鉱脈型鉱床、中熱水成鉱脈型鉱床、浅熱水成鉱脈型鉱床と細分されている。三つの型の鉱脈鉱床は、産出する鉱種に関して以下のような特徴を示す。深熱水成の場合には、錫(すず)、タングステン、それに金などを、中熱水成では銅、鉛、亜鉛、金などを、浅熱水成は金、銀、水銀、アンチモン、硫黄などを比較的多量産出する。また、地下浅所で、浅熱水成鉱脈から深熱水成鉱脈のすべての鉱種産出の特徴を備えている鉱脈鉱床がある。この現象をテレスコーピングtelescopingといい、ゼノサーマルXenothermal鉱床に分類される。
(2)スカルン型鉱床 鉱化流体が炭酸塩鉱物、とくに石灰岩と接触することにより、スカルン型鉱床が生成する。この型の鉱床は接触交代鉱床ともいう。鉱化流体と炭酸鉱物が反応することにより、カルシウムや鉄を含む鉱物、単斜輝石(きせき)(透輝石、へデン輝石)や柘榴(ざくろ)石が生成される。これらの鉱物がスカルン鉱物とよばれる。スカルン型鉱床では、大量のスカルン鉱物が存在する。鉱化流体からスカルン鉱物が沈殿することにより、流体の物理化学的性質が変化する。この物理化学的変化に伴って、鉱化流体から有用鉱物が沈殿し、鉱床が形成される。一般に、スカルン型鉱床から産出する鉱種として、銅、鉛、亜鉛、タングステン、鉄などがある。スカルン型鉱床と生成条件が類似する鉱床にミシシッピ渓谷型鉛・亜鉛鉱床がある。石灰岩を母岩とする熱水成鉱床であるが、スカルン鉱物が存在しない。この型の鉱床は、遠熱水成鉱床Telethermal depositとよばれ、熱水生成の熱源が鉱床から遠距離のところにあるとされている。なお、ミシシッピ渓谷型鉱床の鉱化流体の塩化ナトリウムNaCl濃度は十数%以上と非常に高いことが特徴である。
(3)斑岩型鉱床 活発なマグマ活動によるたび重なるマグマ貫入・固結化作用のため、固結岩体頂部は張力場になり、多数の割れ目が発達する。この火成岩体頂部が鉱床形成の場として最適であり、金属成分が割れ目を充填(じゅうてん)し、大規模鉱床を形成する。マグマ活動が活発な火成岩体頂部は、斑岩(はんがん)型鉱床、とくに斑岩銅鉱床の形成の場であり、品位は低いにもかかわらず鉱床規模・鉱量は膨大である。中生代白亜紀から古~新第三紀に生成した斑岩銅鉱床は、海洋プレートの沈み込み(サブダクション)帯から、大陸側100~200キロメートル程度の範囲に分布するのが特徴で、とくにこの分布特徴は、環太平洋域において顕著となる。
(4)火山噴気鉱床 マグマが地表あるいは海底に噴出した場合、この火山活動に関連して生じたさまざまな有用金属・非金属を含む高温流体(噴気)が陸上または海洋などの水の中に放出される。火山噴気鉱床はこのような火山噴気により生成したもので、陸上火山噴気鉱床と海底噴気堆積鉱床(たいせきこうしょう)の二つに細分される。前者の例として昇華型硫黄鉱床、後者の例として黒鉱鉱床があげられる。黒鉱鉱床の一部は堆積構造をもつだけでなく、泥岩など砕屑(さいせつ)性堆積物を挟み、マグマ成と堆積成の複合型とみなすことができ、いわゆる海底噴気堆積成鉱床(SEDEX型鉱床Sedimentary Exhalative Deposit)に属するものと考えられる。黒鉱鉱床は、日本に特有の鉱床である。この鉱床は、年代規制鉱床Strata Bound Depositの定義があり、生成年代は新第三紀中新世である。海外の大陸地殻楯状(たてじょう)地には先カンブリア時代に黒鉱と同様の生成条件で形成された塊状硫化物鉱床が多数分布する。これらの鉱床は塊状硫化物鉱床Massive Sulfide Depositとよばれる。
熱水成鉱床においては、鉱床生成の熱水活動により鉱床周囲の母岩の構成鉱物のあるものが新たな鉱物に置き換えられ、もとの岩石と異なった鉱物組成をもつようになる。このような作用を母岩の変質といい、プロピライト(緑泥石)化変質、カリ長石化変質、粘土化変質、珪化変質はその代表的なものである。母岩の変質は、温度、圧力(深度)、熱水の化学的性質など鉱床生成時の物理化学的条件を敏感に反映し、一つの鉱床において特徴ある変質帯が系統的に発達するので、鉱床探査の指標に利用される。
[今井直哉・金田博彰]
堆積鉱床ともいう。層状をなして広い分布を示し大規模な鉱床をつくる例が多い。ここでは、堆積成鉱床を、(1)風化残留鉱床、(2)機械的堆積鉱床、(3)化学的・生化学的沈殿鉱床、(4)有機的沈殿鉱床に細分する。
(1)風化残留鉱床 この鉱床は、主として化学的風化作用により形成された鉱床である。風化作用はとくに気候条件に支配されるので、これに基づいていくつかの型に分けられている。このなかで代表的なボーキサイト鉱床は、熱帯ないし亜熱帯の多雨湿潤な気候条件のもとで、岩石のアルミニウム以外のほとんどすべての成分が溶脱して生成したものである。
(2)機械的堆積鉱床 この鉱床は、岩石の風化作用により母岩から分離された、化学的に安定で比重の大きい特定の鉱物が、水や風の営力で岩石・鉱物の破片とともに現地から運搬され、さらにこれら営力の淘汰(とうた)作用により機械的に濃集した砂礫鉱床(されきこうしょう)で、砂鉱床(さこうしょう)または漂砂鉱床ともよばれる。マレー型錫鉱床(すずこうしょう)の一部は、旧河道に堆積した砂礫層の下部に錫石が濃集してできた河成漂砂鉱床であり、日本海の海岸地方にある砂鉄鉱床は海浜漂砂鉱床である。
(3)化学的・生化学的沈殿鉱床 この鉱床は、風化作用によって水に溶解した物質が移動して他所に運ばれ化学または生物作用により沈殿したものであって、これらの作用によって生じた鉱床を単に鉱層ともいう。20億年前に酸化鉄の大量の沈殿により生じた縞状鉄鉱層(しまじょうてつこうそう)がその代表的なものである。また、安定大陸の内陸湖やその周辺の潟の濃厚塩水から蒸発・乾溜(かんりゅう)によりできたカリ塩、岩塩、硬石膏(せっこう)のエバポライトevaporite鉱床もこのなかに入る。
(4)有機的沈殿鉱床 この鉱床の代表的なものが炭酸塩鉱物より構成される石灰石鉱床である。炭酸塩鉱物は化学的沈殿によっても形成されるが、多くの場合、紡錘(ぼうすい)虫、サンゴ、貝類、藻類など石灰質生物の遺骸(いがい)が炭酸カルシウムの供給源となったものである。地下資源に乏しい日本において、石灰石鉱床は量・質ともに誇れるただ一つの鉱物資源であって、現在大規模な露天掘りによって大量に石灰石が採掘されている。
[今井直哉・金田博彰]
地殻の内部における変成作用には、広域変成作用と熱変成作用(接触変成作用)とがある。既存の鉱床を含む岩層が広域変成作用を被った場合、原岩層は片理の発達した結晶片岩に変わると同時に、鉱床もこれに巻き込まれ、圧延されて片理と調和的な層状の形態をとり、また再結晶の結果、構造・組織がすっかり変わってしまい、鉱石にも微褶曲(しゅうきょく)構造や片状構造が発達して、もとの鉱床の姿は打ち消されてしまう。このため、もとの鉱床が同生の鉱層であったのか、後生の交代鉱床であったのか判断がつかないことがあり、研究者により、もとの鉱床の成因について意見が分かれてくる。別子(べっし)式層状含銅硫化鉄鉱床はその例である。このような鉱床を広域変成鉱床という。
鉱床生成後に、この付近に火成岩が貫入すると、マグマから放出される熱のため火成岩体の周囲の岩層は熱変成作用を被り、これを取り囲んで鉱物組成が改変された接触変成帯が発達する。鉱床がこれに取り込まれると鉱物組成が変わってくる。足尾(あしお)山地の焼野・加蘇(かそ)型のマンガン鉱床がこれにあたり、熱変成鉱床あるいは接触変成鉱床といい、これと広域変成鉱床を一括して変成鉱床という。
[今井直哉・金田博彰]
鉱床の形態と内部構造についての知識は、鉱床の成因を考察するために大切であるだけでなく、鉱床の探査や採鉱法の決定にたいへん役だつものである。鉱床はいろいろな地質的要因で生成されるので、その規模、形態、内部構造も変化に富む。形態から分類される例として、岩石の割れ目を満たす脈状、岩石を交代した不規則な形を示す塊状、一方向に伸びたパイプ状、岩石の層理・片理の面構造に平行に発達する層状、岩石全体に微細な鉱石鉱物の集合体が散点する鉱染状などがある。
鉱床の構造から分類される例は次のとおりである。
(1)さまざまな鉱石、脈石(みゃくせき)、中石(なかいし)など大きさの違ったものが不規則に混ざり合った塊状構造
(2)鉱脈に特有な構造でいろいろな鉱物が縞(しま)状に配列する縞状構造
(3)多角形岩片、または鉱石の破片を鉱石や脈石などで膠結(こうけつ)した角礫(かくれき)状構造
(4)鉱床内の大小さまざまな鉱物の自形結晶で縁どられた空洞の存在を示す晶洞構造などである。
鉱床は地殻中に偏在し、有限の広がりをもった再生不可能な資源である。したがって、採掘されている一つの鉱床は減ることがあっても増えることがない。隆盛を極めた鉱山も油田も、人間の一生と同様にやがて老衰し、ついに鉱山や油田としての「生命」を失ってしまう。日本でも、新潟県佐渡、兵庫県生野(いくの)、栃木県足尾(あしお)、愛媛県別子(べっし)などのように江戸時代から昭和年代まで掘り続けられた鉱山があった。しかし、つまるところ、鉱床が大規模なことと、新鉱体の発見・捕捉(ほそく)により「生命」が長引いただけで、現在その大部分は鉱山としての姿を消してしまった。
人類は有史以前からいろいろな形で地下資源を利用してきた。そして人類の金属・鉱物資源の消費は18世紀の産業革命以来増加の傾向をたどったが、第二次世界大戦後の急速な工業化の進展による世界経済の拡大に伴い、その消費は加速度的に増大した。既開発の諸鉱山では既存鉱量の減少が顕著になり、鉱床探査による新たな鉱量の獲得が切実な問題となっている。また、このような既知鉱床の周辺の局所探査だけでなく、新たな鉱床を国内・外において広く探し求める必要に迫られてもいる。
かつて、まだ科学の発達していないころ地下資源を探す方法はきわめて原始的なもので、魔術師が占い棒でこれを探し求めたり、いろいろな迷信を頼りにした根拠の薄いものであった。しかし、地下資源について科学的知識のなかった人々も経験によりしだいにいろいろな事実を学び取るようになり、鉱床を探し当てられるようになってきた。実際のところ、鉱床の存在が予想できる地域(鉱化帯)にはすでに昔の人々が鉱床探査を試みた形跡があり、昔の旧坑をみても、現在の技術に比べると幼稚ではあるが、りっぱな鉱山技術が発達していたことがわかる。
[今井直哉・金田博彰]
科学および科学技術の進歩した現在では、地質学、地球物理学、地球化学など地球科学の分野における諸科学の知識や試錐(しすい)工学など近代技術を基にして、鉱床探査の方法も著しい進歩を遂げた。既開発の鉱山や油田からの生産量が年々減少していくのにもかかわらず、世界の金属や石油の生産が年々増加していくのは、新たな鉱床が探し当てられ次々と開発されるからである。しかし世界の地下資源の絶対量には限界があることは自明である。
日本の第二次世界大戦後の復興は、エネルギー源としての石炭の傾斜生産と、農業肥料の基となった硫化鉄鉱の生産に負うところが大きく、その後の経済的発展は石油エネルギーに依存するに至った。現在、日本は世界屈指の資源消費国になった。また、中国に代表されるように、世界の開発途上国の近代化に伴って、地下資源の世界消費量はますます増大する傾向にある。
人類は早晩、金属、非金属、エネルギーを問わず地下資源の枯渇という危機に直面することは必至である。ただし現状としては、将来をにらんだ新鉱床の発見・確認が必要である。大洋底のマンガン団塊や金属濃度の高い海底金属資源や海底堆積(たいせき)物なども未来資源の一つとして捉えることができる。また、海水そのものから有用元素を回収せざるをえない状況になるであろう。新鉱床発見に加え、資源採掘や生産などの技術開発、都市鉱山と称されている廃棄物からの有用資源回収の技術開発なども重要な課題であろう。今後、地下資源の消費の節約、合理的利用に努力するとともに、鉱床探査・開発技術だけでなく、海洋資源を含めた資源問題の研究を進め、また、資源の最適・有効利用の観点より、国際貢献を通した、世界的な資源の再配分を目することも必要である。その意味で、地下資源の地球上における偏在性を正しく認識し、優れた国際感覚の育成により国際間の協調を主軸とし、世界各地の地下資源の探査・開発に寄与する資源政策を確立すべきである。
[今井直哉・金田博彰]
『リンドグレン著、照井武雄訳『鉱床学』全2冊(1942~1943・工元社)』▽『渡辺武男編『鉱床学の進歩』(1956・冨山房)』▽『立見辰雄編『現代鉱床学の基礎』(1977・東京大学出版会)』▽『アンソニ・M・エヴァンズ著、三宅輝海訳『鉱床地質学序説』(1989・山洋社)』▽『飯山敏道著『鉱床学概論』(1989・東京大学出版会)』▽『石川洋平著『黒鉱――世界に誇る日本的資源をもとめて』(1991・共立出版)』▽『番場猛夫著『いま地球の財産を診る――鉱床学と鉱物資源』増補改訂版(1993・教育出版センター)』▽『佐々木昭・石原舜三・関陽太郎編『地球の資源/地表の開発』(1995・岩波書店)』▽『飯山敏道著『地球鉱物資源入門』(1998・東京大学出版会)』▽『志賀美英著『鉱物資源論』(2003・九州大学出版会)』▽『佐伯尤著『南アフリカ金鉱業の新展開――1930年代新鉱床探査から1970年まで』(2004・新評論)』▽『H. SchneiderhöhnLehrbuch der Erzlagerstättenkunde(1941, Springer Verlag, Stuttgard)』
地質現象によって,人類に有用な元素,鉱物,岩石などがとくに濃集したところを鉱床という。一般に,金属元素を主要な構成成分とした鉱物が生成・濃集している金属鉱床と,ハロゲンや硫黄,リンなどを多く含む鉱物や岩石が生成している非金属鉱床に二大別されるが,最近では石油,石炭にウラン鉱床のような原子力関係に利用される元素を濃集している鉱床も加えた燃料鉱床という区分けもされている。このほか特殊な建材などに利用される岩石や,大洋の海嶺で発見されている金属硫化物を主体とする未固結の沈殿物など,鉱床と呼びうるものは多種多様である。鉱業上は採掘することにより経済的価値が生じて利潤をあげうる場合に鉱床と呼ばれるが,この定義では,例えば金属の市場における売買価格や採掘・回収技術,また鉱床の立地条件などの社会的な要因が大きな意味をもつ。著名な例として斑岩銅鉱床がある。これは銅の供給源として現在世界でもっとも重要なタイプの一つであるが,多くは岩石中の銅含有量(品位)が低く,19世紀には全く開発されていなかった。20世紀に入って品位の高いものからしだいに開発が進んだが,特に1950年代以降は銅量が0.5~1.0重量%程度の低い品位の部分も,大型機械により大規模な露天掘りで採掘することによってコストダウンを行い利潤をあげうるようになり,このタイプの鉱床の開発が飛躍的に増大した。これは採掘技術の進歩によるところが大きい。古くから海水に溶けている金を取り出すことが試みられているが,現在ではまだ利潤をあげるに至っていない。しかし将来金の市場価格が高騰し,また海水からの抽出技術が改良されて簾価で金が取り出せることになれば,海水は鉱業的には金の鉱床として注目されることになろう。このように鉱業上での鉱床は時々刻々とその対象が変わっているといっても過言ではない。自然科学(地質学)の対象としての鉱床は,このような社会的要因に左右されない形で定義されることが望ましい。すなわち稼行の対象となるか否かにかかわらず,特定の元素や鉱物が,ある地質単元(一般には岩石)中での通常の変化範囲を越えて異常に濃集している部分を鉱床と呼ぶ。例えば,金は地殻中に平均0.005ppm程度含まれている。もしこの平均値より1000倍程度濃集して5ppmの金を含むようになれば(岩石1t中に金5g),これは異常濃集であり,地質学では鉱床として扱われる。このように元素に関していえば,一般に地殻での平均存在量の10倍から数千倍程度に濃集したものが鉱床である。
大気,水,有機物,未固結物などの特殊な例を除けば,鉱床は岩石の一部であり,その成因も岩石の成因と共通の要素がある。このため鉱床の成因による分類は岩石のそれにならって,火成鉱床,堆積鉱床,変成鉱床と三大別することが一般に行われている。
火成鉱床はマグマの活動に関係した地質現象によって生成される鉱床で,正マグマ鉱床や熱水鉱床で代表される。堆積鉱床は堆積作用やそれに引き続いて起こる地質現象によって生成される鉱床であり,多くは鉱層を形成する。変成鉱床は既存の鉱床が変成作用をうけたものをさすが,変成作用そのものが有用な元素や鉱物の濃集をもたらすことはあまりなく,成因上は前2者が圧倒的に重要である。
マグマ活動に関係して発生した高温の水溶液(鉱化流体)が海底面上に湧出し,それから沈殿した有用な鉱物が,ほかの堆積物に挟在する例がある(例えば黒鉱鉱床など)。このような場合には火成鉱床にも堆積鉱床にも分類しうる。また鉱床の周囲の岩石(母岩)との成因的関係で同生鉱床,後生鉱床に大別することも行われている。同生鉱床とは,鉱床と母岩がほぼ同時代に同じ地質現象により生成されたものをさし,正マグマ鉱床や堆積鉱床の大部分がこれである。後生鉱床とは,母岩の形成後に鉱床が母岩の形成とは異なる地質現象により生成されたもので,熱水鉱床などが代表的なものである。
鉱床は種々の地質現象により生成されるので,その形,規模,内部構造もまたさまざまである。同生の堆積鉱床は地層の一部として形成されるので,板状~レンズ状となる。規模の大きな鉱床が多く,堆積作用を示す内部構造がみられることもある。正マグマ鉱床は母岩である火成岩体の一部分としてレンズ状~塊状でみられ,鉱床と母岩の境界が漸移的である場合も多い。後生鉱床は母岩の構造を切って入りこむことが普通で,その侵入の機構や様子により鉱脈,鉱染鉱床,交代鉱床,塊状鉱床などと呼ばれる。同生鉱床に比べると一般に規模は小さく,内部構造は複雑で,母岩の構造が残っていたり,新しく生成した鉱物の沈殿順序を示す縞模様がみられたりする。鉱床の形態や規模は,鉱床を開発する際に採掘方法を決定するための重要な要素である。
人類は有史以前からいろいろな形で地下資源を利用してきた。現代でも人類が採掘・消費する金属,非金属,エネルギー資源の量は年を追って急増している。未発見の鉱床を探すことを探査といい,会社あるいは国が活発な探査活動を行っているが,発見量が採掘量を上回ることはまれである。また大規模な鉱床開発は公害を伴うため,鉱床の存在は知られていても開発ができない地域もある。鉱床は地球が長い地質時代を通して形成したものであって,その量は有限であり,再生できない資源である。これらのことを考えると,遅かれ早かれ人類は金属,非金属,エネルギーを問わず地下資源の枯渇という困難に直面することとなろう。大洋底のマンガン団塊や海嶺上の金属硫化物を主とする沈殿物,さらには海水そのものなど従来利用できなかった地質単元を鉱床として開発する技術も必要となろう。また鉱床の多くは地球上で偏在していることも見逃せない事実であり,地下資源をめぐって多国間に争いを生じた例は数知れない。世界全体が長期の視野に立った資源政策をもたなければ,人類が直面するであろうこの困難を乗り越えることは難しい。
→資源
執筆者:島崎 英彦
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地殻を構成している物質は,岩石が大部分を占めているが,この岩石のなかにある特定の元素が普通の岩石に比較して濃縮している場合がある.このように特定の元素を主成分とする物質を比較的多量に含んでいる場合,普通の岩石と区別して鉱床とよぶ.たとえば,古生層の地層のなかにはマンガン,鉄が異常に濃縮していたり,たい積岩の地層の間に炭素や有機物(石炭,石油,天然ガス)の濃縮層が見つかる.鉱床の種類と分類は大きくは,岩石と同じように成因形式によって火成鉱床(magmatic deposit),たい積性鉱床(sedimentary deposit),変成鉱床(metamorphic deposit)の三つに分けられる.それぞれはさらに小さく分類される.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…地中に存在する有用鉱物を採取する作業を採鉱といい,この活動の行われる場所を鉱山という。有用鉱物は鉱床として限られた区域に存在することが普通であるが,その存在の状態はきわめて多様である。鉱山ではこれらの多様な鉱床を対象に採取活動が行われるため,鉱山の形態も多様である。…
※「鉱床」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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