スラブ人(読み)スラブじん(英語表記)Slav

翻訳|Slav

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スラブ人」の意味・わかりやすい解説

スラブ人
スラブじん
Slav

ヨーロッパ最大の人種的,言語的な諸民族の集合体。主として東ヨーロッパに居住するが,最近数世紀にわたる移住によって今日ではコーカサス (カフカス) ,北・中央アジア,極東のみならず北アメリカ,西ヨーロッパ,オーストラリアにも広く分布している。総人口は推定で約2億 6000万 (1991) 。言語的にはイラン人などと同じくインド=ヨーロッパ語族のサテム系に属する。普通,東スラブ (ロシア人,ウクライナ人,ベラルーシ人) ,西スラブ (ポーランド人,チェコ人,スロバキア人,ソルブ人) ,南スラブ (セルビア人,クロアチア人,スロベニア人,マケドニア人) の3つに大別される。原ブルガリア人はハンガリー人などと同じくアジア系に属するが,その他はスラブ化され,今日では普通南スラブに分類される。宗教的には,ギリシア正教会に属するもの (ロシア人,ウクライナ人の大部分,ベラルーシ人の一部,ブルガリア人,セルビア人,マケドニア人) とローマ・カトリック教会に属するもの (ポーランド人,チェコ人,スロバキア人,クロアチア人,スロベニア人,ウクライナ人の一部,ベラルーシ人の大部分) の2つに大別される。前者はおもにキリル文字後者はおもにラテン文字を使用。ただしウクライナ人,ベラルーシ人は両教徒ともギリシア文字を使用する。このほかチェコ人のなかに若干のプロテスタント,またボスニア地方のセルビア人のなかに若干のイスラム教徒が存在する。スラブ人の起源地については,18世紀以来論争が戦わされていていまだに定説がないが,大別して,(1) オーデル=ウィスワ河間地域,(2) 黒海北方ウクライナの2つに分れ,最近特に言語的観点からカルパート山脈北麓説が有力となってきている。前1千年紀にはゲルマン人,ケルト人と混住していたが,両民族の西方移動とともに5~6世紀頃に西はエルベ川まで,南はバルカン半島深く進出し,ゲルマン人にやや遅れて国家を形成した。中世にはゲルマン人に押され次第に東方に後退したが,19世紀における民族覚醒,第1,2次両世界大戦における対ドイツ勝利によって再び西漸し,今日にいたっている。

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