ロシア,ベラルーシ,ウクライナを南に流れ黒海にそそぐ大河。ウクライナではドニープロ川Dniproと呼ぶ。ヨーロッパではボルガ川,ドナウ川に次ぐ第3の川。長さ2200km,流域面積50万4000km2。沿岸住民やコサックの生活,経済と密接な関係をもち,〈父なるドニエプル〉と呼ばれる。
ドニエプル川ははじめスモレンスク丘陵北部標高約250mの斜面から流れはじめ,南西に流れてスモレンスクを通り,ロシアからベラルーシに入り,オルシャでは急崖と急流をつくって南に向きをかえ(〈コベリャクの早瀬〉といい,観光地となる),平野に出てモギリョフを通り,ゴメリの西方を通過してウクライナに入り,キエフ,ザポロージエから南西に湾曲してヘルソン付近で長大なデルタをつくって黒海のドニエプル入江にそそぐ。年間流量平均はヘルソン付近で1700m3/s。12月から翌年3月下旬(上流では4月上旬)まで結氷。
キエフの少し上流からは本流に構築されたダムと貯水池によって,河川縦断面はほぼ階段状になり,河水は流量制御されて洪水は防がれ,発電,飲用水,工業用水,灌漑用水など多角的に利用されるに至った。現在,ダムは本流に六つあり,上流からキエフ,カネフ,クレメンチュグ,ドニエプロジェルジンスク,レーニン記念ドニエプル(ザポロージエにあり,1932年完成),カホフカのそれである。ドニエプル川に沿ってウクライナの重工業地帯が形成されているため,単に水力発電だけでなく,工業用水や雑用水の需要が高まっており,同時に中・下流のステップの乾燥地帯の農牧地面積を拡大していくためには,このような河域統制が必要となったものである。灌漑用水と上水道は,ドニエプル川からクリボイ・ログ,ドンバス,南ウクライナ,北クリミアなどに引かれている。
ドニエプル川は水上交通の大動脈であり,流域に立地する重工業都市向けの原材料(石油,鉱石,穀物,木材,綿,セメント,鋼材など)と工業製品の輸送のためにも,不可欠の存在となっている。上流およびその支流は運河によって他の水系へ抜けることができる。とくにドニエプル・ブーグ運河はドニエプル川~プリピャチ川~ピナ川からビスワ水系の西ブーグ川に出られるから,黒海とワルシャワやバルト海が内陸水路によって結ばれることになる。また西ドビナ川とはベレジナ運河,ネマン川とはドニエプル・ネマン運河により結ばれ,それぞれバルト海につながるが,現在この2水路は使われていない。ドニエプル水系のおもな港は,スモレンスク,モギリョフ,キエフ,チェルカッシ,クレメンチュグ,ドニエプロジェルジンスク,ドニエプロペトロフスク,ザポロージエ,ニコポリ,ヘルソンなどである。
ドニエプル川はスラブ古代史でも大きな役割をもった。黒海~ドニエプル川~ボルホフ川~バルト海あるいはバイキングの国への水上ルートは,シルクロードの太い支線であり,この道筋をたどってビザンティン帝国や東方の文物が運びこまれた。また9世紀後半にノブゴロドに建国したとされるリューリクは息子や家臣をこのルート伝いに南下させてキエフに公国をつくらせた。
執筆者:渡辺 一夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ロシア、ベラルーシ、ウクライナを流れ黒海に注ぐ大河。ウクライナ語でドニプロДнiпро/Dnipro、また古代ギリシア語でボリステネスBorysthénēsとよばれた。
[金窪敏知・須長博明]
ロシア連邦の首都モスクワ西方のバルダイ丘陵(標高250メートル)に発し、ロシア、ベラルーシ、ウクライナを南流して、黒海のドニプロ湾に注ぐ。流長2200キロメートル、流域面積50万4000平方キロメートル。ヨーロッパ・ロシアではボルガ川に次ぐ大河。上流部は氷期のモレーン(氷堆石(ひょうたいせき))からなるスモレンスク丘陵で、混交林地帯をなすが、モギリョフからキーウまでは、ベレジナ、ソジ、プリピャチ、デスナなど多数の支流が合流して広大な氾濫(はんらん)平野を形成し、沼沢地と広葉樹林が占める。中流部はキーウからザポリージャまでで、黄土からなるステップ地帯を通過し、下流部にはデルタを形成する。川の涵養(かんよう)源は、主として雪で、上流部では50%を占め、残りが地下水と雨で、雨の役割が小さい。キーウでの流量は年平均毎秒7000トン、最大2万5000トン、最小200トンで、春の洪水時に年間流量の60~70%、ときには80%が流れる。上流部では12月~4月初旬、下流部で12月~3月初旬に結氷する。
[金窪敏知・須長博明]
沿岸には、スモレンスク、モギリョフ、キーウ、クレメンチュク、ドニプロ、ザポリージャ、ニコポリ、ヘルソンなどの大都市が連なり、キーウ(55.1万キロワット)、クレメンチュク(62.5万キロワット)、カーミヤンシケ(25万キロワット)、カホウカ(31.2万キロワット)にはダムと発電所が建設され、ドニプロ重工業地帯の中核となっている(括弧(かっこ)内発電能力)。このうちザポリージャに建設されたドニプロ発電所は、旧ソ連が第一次五か年計画によって1932年自力で完成したもので、発電能力は当初40万キロワット、現在65.3万キロワット。誕生した人造湖はレーニン湖とよばれる。ドニエプル川は水上交通路としても重要で、河口から1990キロメートル上流のドロゴブジまで汽船が航行し、また支流プリピャチ川からドニエプロ‐ブク運河によって、ポーランドのビスワ川に通じる内陸水路も開けている。おもな輸送貨物は、木材、紙、パルプ、小麦、石炭・石油製品などである。下流部のカホウカからクリミア半島までクラスノズナミヤ運河が建設され、灌漑(かんがい)用水として利用されている。ドニエプル川の中・下流域はウクライナ穀倉地帯であり、また第二次世界大戦中の激戦地となった。
[金窪敏知・須長博明]
ヴァルダイ高地からウクライナ中央部を通り黒海に注ぐロシアの大河。9~12世紀のキエフ公国時代は,「ヴァリャーギ(ノルマン)からギリシアへの道」の主要路であった。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
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