ゲルマニア(読み)げるまにあ(英語表記)Germania

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゲルマニア」の意味・わかりやすい解説

ゲルマニア
げるまにあ
Germania

ローマの政治家・歴史家タキトゥスの作品。原題は『ゲルマニア人の起源と風俗について』。ライン川とドナウ川の北のゲルマン人諸部族についての記述で、ゲルマニアに関する最初のまとまった作品。西暦98年に公刊された。新興のゲルマン人と退廃しつつあるローマ人とを対比して、北方の脅威に対するローマ人の注意を喚起し、道徳的な警鐘を鳴らしたものと解されるが、純粋な知的関心から生まれたものとみる説もある。全編46章。それぞれが短い叙述からなる。二つの部分に分けられ、第1部(第1~27章)は、ゲルマン人一般の習俗祭祀(さいし)、冠婚などについての概観であり、第2部(第28~46章)は、ゲルマン人諸部族の個々についての記述となっている。原始ゲルマン人の歴史、ドイツ古代史の第一等の史料として、カエサルの『ガリア戦記』と並称される。

[長谷川博隆]

『泉井久之助訳註『ゲルマーニア』(岩波文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ゲルマニア」の意味・わかりやすい解説

ゲルマニア
Germania

ローマの歴史家タキツス著書。 98年刊。旅行者の報告と文学的資料に基づいて書いたライン以東ドナウ以北のドイツ地誌で,ラテン語の地理的民族学的著作として現存する唯一のもの。古代の分類では歴史書とされる。前半はゲルマニアの地勢と政治,宗教,風俗習慣などを,後半はスウェーデンフィンランドまで含めたゲルマニアに住む諸民族それぞれの地理的条件や特性を描く。彼らの道徳性とローマの堕落との対照などから明らかなように,著者の意図は地理的興味よりもむしろ,すでに失われてしまった昔日のローマ人の徳性と自由が未開のゲルマニア人の間に根強く生きているのをみて,これを範としてローマ人に示すことにあった。

ゲルマニア
Germania

古代ローマ人がゲルマン人の居住地に対してつけた呼称。ヨーロッパ中部,ドナウ川の北,ライン川以東からウィスラ川までの,ローマ人に征服されないゲルマン人居住地,いわゆる「自由ゲルマニア」をさす。 89年に,それと境を接して「上ゲルマニア」 (都はマインツ) ,「下ゲルマニア」 (都はケルン) の2属州がつくられ,ゲルマニアとは,この両地域をさすことになった。古代ローマの将軍ユリウス・カエサルの『ガリア戦記』によると,沼沢の多い荒涼とした森林地帯であった。

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