日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゼメキス」の意味・わかりやすい解説
ゼメキス
ぜめきす
Robert Zemeckis
(1952― )
アメリカの映画監督。シカゴ生まれ。少年時代から映画やテレビの熱烈なファンで、高校在学中から8ミリ映画の製作を開始、北イリノイ大学から南カリフォルニア大学映画学部に編入して映画製作を学ぶ。学生アカデミー賞に輝いた大学在学中の作品『名誉の戦場』Field of Honor(1973)を、スティーブン・スピルバーグと、同大学の卒業生であるジョン・ミリアスJohn Milius(1944― )に見せて評価されたことから、彼らの取り計らいで後にスピルバーグの手で監督される『1941』(1979)の脚本を、大学の同級生で脚本執筆のパートナー、ボブ・ゲイルBob Gale(1952― )とともに推敲を重ねる機会に恵まれる。
最初の監督作品は、スピルバーグ製作総指揮で、やはりゲイルと共同執筆した『抱きしめたい』(1978)。ビートルズがアメリカに初上陸を果たした際のいわゆる「ビートルマニア」の騒動を、当のビートルズの映像抜きに巧みにつづる青春コメディである。ゼメキスとゲイルの脚本、ゼメキス監督というコンビは、さらに『ユーズド・カー』(1979)などを経て、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)へと到達。1985年最大の興行記録を樹立する大ヒット作となり、ゴールデン・グローブ賞の脚本賞にもノミネートされるなど、ゼメキスはヒットメーカーとしての地位を確立。『同Part2』(1989)、『同Part3』(1990)とシリーズ化され、それぞれ彼が監督を担当した。そのほかにも、実写とアニメーションを大胆に組み合わせた『ロジャー・ラビット』(1988)や、整形手術などに奔走する中年女性たちの姿を特殊効果も交えて描くブラック・コメディ『永遠(とわ)に美しく…』(1992)など、先端的なテクノロジーを取り入れながら、それを物語のなかで効果的に活かす手腕に長(た)けていた点で、1980年代以降の映画界の動向を体現した映画監督といえる。そうした彼の資質や方向性の集大成として、代表作の『フォレスト・ガンプ 一期一会(いちごいちえ)』(1994)が生み落とされる。
アメリカ文学や映画にしばしば登場する、混沌とした世界を浄化する純粋無垢(むく)なる存在の典型であるフォレスト・ガンプの目を通して激動のアメリカ現代史をつづる本作では、大統領ケネディやジョン・レノンといった歴史上の重要人物と映画の登場人物であるガンプがまるで同じニュース映像上で共存するかのように見える場面などに、物語とテクノロジーの幸福な融合を通した斬新(ざんしん)な歴史記述が実現。世界的な大ヒットを記録するばかりか、アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞、アメリカ映画監督協会賞などで監督賞を受賞。1990年代を代表するアメリカ映画の一本に数えられると同時に、ゼメキスにとっても、ヒーローであるスピルバーグやジョージ・ルーカスのフォロワーや弟分としての位置付けから卒業する契機ともなった。その後も『フォレスト・ガンプ』のスタッフを総結集して製作された、カール・セーガンCarl Edward Sagan(1934―1996)原作の宇宙を舞台にしたSF映画『コンタクト』(1997)を大ヒットさせるなど、高い質を維持しながら野心的なヒット作を着実に生み出す職人的な映画監督としての評価を確立させている。
[北小路隆志]
資料 監督作品一覧
抱きしめたい I Wanna Hold Your Hand(1978)
ユーズド・カー Used Cars(1979)
ロマンシング・ストーン 秘宝の谷 Romancing the Stone(1984)
バック・トゥ・ザ・フューチャー Back to the Future(1985)
世にも不思議なアメージング・ストーリー Amazing Stories(1986)
ロジャー・ラビット Who Framed Roger Rabbit(1988)
バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2 Back to the Future Part Ⅱ(1989)
バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3 Back to the Future Part Ⅲ(1990)
永遠に美しく… Death Becomes Her(1992)
フォレスト・ガンプ 一期一会 Forrest Gump(1994)
コンタクト Contact(1997)
キャスト・アウェイ Cast Away(2000)
ホワット・ライズ・ビニース What Lies Beneath(2000)
ポーラー・エクスプレス The Polar Express(2004)
ベオウルフ 呪われし勇者 Beowulf(2007)
Disney'sクリスマス・キャロル A Christmas Carol(2009)
フライト Flight(2012)
『ジェレミー・ケイガン編、水原文人訳『映画監督という仕事』(2001・フィルムアート社)』