推敲(読み)すいこう

故事成語を知る辞典「推敲」の解説

推敲

詩や文章を作る際、字句や表現を何度も練り直すこと。

[使用例] 二三首作りはしましたが、どうも未だ推が足りません[末広鉄腸*雪中梅|1886]

[使用例] 大学ノートに走り書きしたのを推敲しながら原稿用紙に浄書して三百枚、これにボール紙で表紙をつけ[加賀乙彦*湿原|1986]

[由来] 「唐詩紀事―四〇」に載っている話から。唐王朝も中期にさしかかった九世紀の初めごろ、科挙(官吏採用試験)を受けるために都にやってきた、とうという詩人がいました。彼はロバに乗っているときに詩を作ろうとして、「僧は推す、月下の門」というを思いつきましたが、「推す」のままがよいか「たたく」と直したほうがよいか、決まりません。推す動作をしたり敲く動作をしたりしてみましたが、結論には至らず。悩むあまり、都の長官、かんの馬に衝突してしまいました。賈島がその理由を詳しく述べたところ、韓愈はしばらく考えて「敲く」がよいと答え、二人は並んで進みながら詩を論じ合ったのでした。

[解説] ❶賈島は、非常に苦労をして一つの詩を作り上げることで知られた詩人。ある句ができあがるまでに三年もかかり、できあがったときには涙を流した、という話もあります。❷韓愈は、文学史上に大きな足跡を残す、当時の文壇の大御所。彼が「敲く」がよいと言ったのは、その音響効果を意識してのことでしょう。動作についてばかり考えていた賈島からすれば、目を開かれる思いがしたに違いありません。❸だとすれば、この故事成語には、よい文章を書くためには発想の転換も必要だ、という教訓も含まれている、といえましょう。

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精選版 日本国語大辞典「推敲」の解説

すい‐こう ‥カウ【推敲】

〘名〙 (「苕渓漁隠叢話」の「緗素雑記曰、賈島於京師句。鳥宿池辺樹、僧敲月下門。始欲推字。又欲敲字、錬之未定。〈略〉引手作敲推。時韓愈吏部権京兆。島不覚衝至第三節、左右擁至尹前。島具対得。詩句云云。韓立馬良久謂島曰、作敲字佳矣。遂与並而帰」による語。唐の詩人賈島が「僧推月下門」の句を作ったが、「推(おす)」を「敲(たたく)」に改めた方がよいかどうかに苦慮して、韓愈に問い「敲」に決したという故事から) 詩や文章を作るにあたって、その字句や表現をよく練ったり練り直したりすること。
※鈍鉄集(1331頃)春事「毎春事心先動。句裏推敲吟休」
※荊口宛芭蕉書簡‐元祿六年(1693)四月二九日「ふたつの作いづれにやと推稿難定処」

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デジタル大辞泉「推敲」の解説

すい‐こう〔‐カウ〕【推×敲】

[名](スル)《唐の詩人賈島かとうが、「僧は推す月下の門」という自作の詩句について、「推す」を「たたく」とすべきかどうか思い迷ったすえ、韓愈かんゆに問うて、「敲」の字に改めたという故事から》詩文の字句や文章を十分に吟味して練りなおすこと。「推敲を重ねる」「何度も推敲する」
[類語]改稿添削リライト練る筆を入れる朱筆を入れる朱を入れる手を入れる手を加える補筆筆削彫琢

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

普及版 字通「推敲」の解説

【推敲】すいこう(かう)

詩文の字句を練る。〔唐詩紀事、四十、賈島〕島~驢に騎(の)りて詩を賦し、は推す下の門の句を得たり。推を改めて敲と作(な)さんと欲し、手を引きて推敲の勢を作し~覺えず大尹韓に衝(あた)れり。乃ち(つぶ)さに言ふ。曰く、敲字佳なりと。に轡を竝べて詩を論ずること久之(しばら)くす。

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