改訂新版 世界大百科事典 「ソシオエコノミックス」の意味・わかりやすい解説
ソシオ・エコノミックス
socio-economics
社会経済学。経済過程を,独立のものとしてではなく,政治的,社会的そして文化的な過程との相互作用のもとにあるものとして扱う経済学。M.ウェーバーとT.パーソンズの著書名《経済と社会》からもうかがわれるように,こうした方向における経済研究はおもに社会学者によって構想されてきた。つまり,社会学的な観点を基礎にする経済学という意味で社会経済学socio-economicsとよばれるのである。しかし,社会諸科学はそれぞれ独立したものとして論じられる傾向にあるため,社会的事実の一側面つまり物質的・技術的側面に関する部分的な研究として経済学を位置づけ,それと他の諸側面に関する研究とを総体的に関連づけるような試みは少なかった。このような個別諸科学の孤立性を反省して諸学の協同をはかろうとするのはK.E.ボールディングのシステム論,J.K.ガルブレースやK.G.ミュルダールの文明論などであるが,とくにT.パーソンズは,A.マーシャル,J.シュンペーターおよびJ.M.ケインズの経済学に含まれていた社会的要素を独自の社会学的分析装置によって明示化することを通じ,経済と社会の関係を理論的に究明しようとした。しかし今までのソシオ・エコノミックスは,社会諸科学の既存の成果を基本的に是認したうえでの協同研究という意味で,学際的interdisciplinary接近に属するが,それら既存の成果はさまざまのイデオロギーを伴っていることが少なくない。このいわゆる理論の価値負荷性を解釈する作業が欠如しているならば,学際研究は場当り的な学説混交に陥りがちになる。ソシオ・エコノミックスも社会科学の総体に関する解釈学的作業のうえに構築さるべきものと考えられつつある。
執筆者:西部 邁
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報