改訂新版 世界大百科事典 「タウヒード」の意味・わかりやすい解説
タウヒード
tawḥīd
アラビア語で〈神の唯一性〉を意味する用語。〈一つである〉を意味する動詞waḥadaの第2型で〈一つにする〉〈一つと認める〉を意味するwaḥḥadaの動名詞。イスラムにおける主要な基本的教義である。イスラム神学が,ときとして〈タウヒードの学〉と呼ばれるのはそのためである。しかし,一口にタウヒードといっても,人により,また学派や宗派によってその具体的内容は異なる。たとえば,一般のムスリムにとっては,それは〈アッラーのほかに神なし〉ということを告白し,他の神を現実に崇拝しないことである。神学者にとっては,神が一つということは,神の独一性,神と被造物との隔絶性,具体的にはコーランやハディース(伝承)における〈擬人的〉表現の解釈をめぐる議論である。これについて,ムータジラ派は神の絶対的唯一性を説く立場から多性を示すとする神の属性を否定するのに対して,アシュアリー派はこれを認める。またスーフィーたちは,これを自我意識が消滅してすべてが神に包摂されてしまっているファナーの意味に用いる。
執筆者:中村 廣治郎
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