ムータジラ派(読み)ムータジラは(その他表記)Mu`tazila

改訂新版 世界大百科事典 「ムータジラ派」の意味・わかりやすい解説

ムータジラ派 (ムータジラは)
Mu`tazila

8世紀中ごろから10世紀中ごろまで栄えたイスラム神学の先駆的一派。初期のムータジラ派は,イスラムの根本的な教義タウヒードを合理的な思惟によって擁護した人々で,その特徴的な教義は神の属性の否定と,〈創造されたコーラン説〉であった。前者は伝統的なウラマーアッラーの属性名を認めていたのに対し,本質のほかに属性を認めることは,神が外部の何ものかに依存していることになり,タウヒードに矛盾するとして神の属性を否定したものである。後者もウラマーがコーランを神とともに永遠な神の言葉そのものであると主張するのに対し,それは神のほかに永遠なるものを並べるシルク多神教)にほかならないとして,コーランが神によって創造されたことを説いたものである。

 アッバース朝カリフ,マームーンが827年に〈創造されたコーラン説〉を公認するに及び,ムータジラ派はアッバース朝宮廷で支配的勢力となった。それは学派としてまとまったものではなかったが,アシュアリーは彼と同時代のムータジラ派に共通原則として,(1)タウヒード,(2)アドル,(3)天国への約束と地獄への脅し,(4)信者と不信者との中間の状態,(5)勧善懲悪の五つを挙げる。この段階ではタウヒードと並んで,ヘレニズム的観念での神の正義(アドル)が強調され,アリストテレスの論理学が方法論となった。ムータジラ派というのは〈退いた人々〉を意味し,外部から与えられた名で,自らは〈タウヒードとアドルの徒〉と称し,また外部から〈カラームの徒〉とも呼ばれた。彼らはカラーム(言葉,議論思弁)を方法論としたイスラム最初の神学者グループで,アシュアリーは彼らの方法論を取り入れつつスンナ派神学を樹立した。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ムータジラ派」の意味・わかりやすい解説

ムータジラ派
ムータジラは
al-Mu`tazilah

イスラムの神学派の名称。始祖はワーシル・イブン・アター (748没) 。ムータジラという名称は,対立するハワーリジ派とムルジア派に対して中立の立場をとったことから,身をひく,離れ去るを意味するアラビア語i`tazalaからつけられたといわれる。「神」だけが「唯一絶対」であり,コーランも「神」による被造物にすぎないとしたため,コーランを絶対視する正統派の学説とは真向から対立した。9世紀に入ってギリシア哲学の論理を導入して合理的思弁神学として発展,アッバース朝の第7代カリフのマームーンによって公認され,833年審問機関ミフナが設立されて反対派の裁判官は公職から追放された。 848年第 10代カリフのムタワッキルによってミフナは廃止され,ムータジラ派公認は取消されたが,勢力は依然盛んであった。 10世紀に入り,アシュアリー (873~935) らによって正統派神学にもギリシア思弁哲学の論理が取入れられると,ムータジラ派は急速に衰えた。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ムータジラ派」の解説

ムータジラ派(ムータジラは)
al-Mu‘tazila

イスラームで最初の思弁的神学派。タウヒードの合理的解釈から神の属性を否定し,コーランを神とは区別される被造物とし,また神の正義や自由意志説を説く。アッバース朝は一時同派を公認したが,のちに取り消した。

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世界大百科事典(旧版)内のムータジラ派の言及

【イスラム】より

…ムルジア派の判断保留は,単に罪の問題だけでなく,ウマイヤ朝とハワーリジュ派・シーア派との抗争に対する政治的中立をも意味した。これと同じ思想的風土に生じたものにムータジラ派がある。ムータジラと呼ばれた最初の人ワーシル・ブン・アターWāṣil b.‘Atā’(699‐748)は,信仰(イーマーン)と無信仰(クフル)の問題に関し,そのいずれでもない〈中間の状態〉を唱えたと伝えられる。…

【タウヒード】より

…神学者にとっては,神が一つということは,神の独一性,神と被造物との隔絶性,具体的にはコーランやハディース(伝承)における〈擬人的〉表現の解釈をめぐる議論である。これについて,ムータジラ派は神の絶対的唯一性を説く立場から多性を示すとする神の属性を否定するのに対して,アシュアリー派はこれを認める。またスーフィーたちは,これを自我意識が消滅してすべてが神に包摂されてしまっているファナーの意味に用いる。…

【マームーン】より

…イラン人の女奴隷を母にもち,東方諸州の総督となったが,809年の異母弟アミーンal‐Amīn(787‐813)のカリフ即位後,両者間は険悪化,内乱となり,813年バグダードを占領してカリフ位についた。国内の反乱の鎮圧に努力する一方,バイト・アルヒクマ(知恵の館)を建設してギリシア文献の翻訳事業を推進,その影響を受けたムータジラ派神学を公認教義として思想統一を図るとともに学問を奨励した。【森本 公誠】。…

※「ムータジラ派」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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