改訂新版 世界大百科事典 「タコマナローズ橋」の意味・わかりやすい解説
タコマ・ナローズ橋 (タコマナローズきょう)
Tacoma Narrows Bridge
アメリカ合衆国ワシントン州タコマ市近郊にあり,ワシントン州本土とオリンピック半島を隔てるピュージェット湾に架かるつり橋。1940年に建設され,853mという,当時世界第3位の長支間を誇ったが,開通後わずか4ヵ月経た11月7日,19m/sというさして強くない風速の風を受けて激しい振動を生じ崩壊した。この橋は当初から微風のもとでも振動を生ずることが認められ関心が払われていた。落橋当日もワシントン大学の研究者らが現場に赴いており,事故の経過は逐一映画に記録され,貴重な資料となった。この日早朝からの風で当初は小振幅のたわみ振動が続いていたが,風速が19m/sに達したとき突然大振幅のねじれ振動に移り,1時間後に橋桁はちぎれ海中に落下した(図)。このねじれ振動は航空機でも問題となる失速フラッターと相通ずるもので,いったん振動が始まると,空気力の負減衰効果によって振幅が発散する自励振動の一種である。
事故の後,大規模な風胴模型実験に基づき,剛性の低いプレートガーダー形式の元の補剛桁に代わってトラス補剛桁が採用され,さらに路面の一部に風抜き格子を設けるなどして架け替えが行われ,それ以後は何ごともなく供用されている。この事故を契機として,風による構造物の振動に関する研究が著しい進展を遂げ,以後の世界のつり橋の設計に反映されるようになった。
→耐風設計 →橋
執筆者:伊藤 学
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報