タントリズム(その他表記)Tantrism

山川 世界史小辞典 改訂新版 「タントリズム」の解説

タントリズム
Tantrism

6~7世紀頃から,仏教を含めたインドの諸宗教にみられる宗教的潮流総称。仏教ではこれを密教と呼ぶ。儀礼化された教義の実践を通じて解脱(げだつ)や超自然的能力が獲得されると説く。教義と儀礼は,シヴァ派ではアーガマ,ヴィシュヌ派ではサンヒター,シャークタ派ではタントラと総称される文献に説かれている。インド学の初期に,タントラ文献が最初に知られたためにタントリズムという概念が生まれた。特定の師の指導により儀礼実践の資格を得るディークシャー(密教の灌頂(かんじょう))の儀礼が最も重要。すべての儀礼でマントラ(真言(しんごん))と呼ばれる聖句が用いられる。初期のタントリズムでは性的儀礼や死体を用いた儀礼が行われたと考えられるが,13世紀頃から象徴的に解釈された。

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百科事典マイペディア 「タントリズム」の意味・わかりやすい解説

タントリズム

インド思想の重要な概念の一つ。サンスクリットの語〈タントラ〉(枠組み,教義などの意)に英語のismを付けたもの。仏教を含め,インド世界の多くの宗派で見られる。明確な定義はできないが思想の流れとして,〈完全に自由な行為する主体復権〉と理解される。教義としては,自己と人格的絶対者の同一性を求めることであり,自らの本質を認識し,適当な修行を行うならば,神としての自己のあり方に戻るとされる。教義の実践のためには師への入門式が重要で,これにより死後解脱が保証される。それでも死ぬまで毎日マントラ(呪(じゅ))を唱えて神を供養することが義務となり,これにより自分自身と神との一体性を修得するとされる。現世で解脱を求める者は,性的儀礼,死体の儀礼という修行を通して自己の絶対的自由を確認する。

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世界大百科事典(旧版)内のタントリズムの言及

【インド哲学】より

…7世紀ころから南インドにシバ聖典派,9世紀にはカシミール・シバ派などのシバ教諸派,またかなり古くからバーガバタ派Bhāgavata,パンチャラートラ派Pañcarātraなどのビシュヌ教諸派も成立する。さらに現世を肯定し大宇宙と小宇宙との同一視,女性原理シャクティ崇拝を特徴とするタントリズムの成立・展開もこの時代である。仏教も8世紀以後密教化の傾向を強め,1203年にはイスラム教徒の勢力によって事実上消滅した。…

【タントラ】より

…最古のものは7世紀ころの成立とされる。これらに盛り込まれた教えのことを,英語ではタントリズムTantrismというが,これは,ベーダ以来の正統的教義を底流に置きながらも,ベーダ的伝統が軽視,あるいは否定していた要素を前面に出し,全体として秘儀的となっている。それは,ウパニシャッドなどと同じく解脱を求めるのであるが,しかし,この世を厭う出家主義という方向をとるわけではない。…

【ハタ・ヨーガ】より

…ヒンドゥー教の一宗派ナート派が伝えてきたヨーガで,13世紀ころの北インドの聖者ゴーラクナート(ゴーラクシャナータ)が開祖であると伝えられる。シバ派のタントリズム(タントラ)の教義にのっとり,気息という一種の生命エネルギーを利用し,クンダリニーという蛇の形をとって脊椎の最下部に潜んでいる性力(シャクティ)を覚醒させ,エネルギーの溜り場であるいくつかのチャクラを経由させながら脊椎沿いに上昇させることを目ざす。このため,このヨーガは〈クンダリニー・ヨーガ〉と呼ばれることもある。…

【ヤントラ】より

…ヒンドゥー教徒,とくにタントリズムを行ずる人々が瞑想の補助具として用いる象徴的幾何学図形による図像。その図形に意識を集中することにより,心中にそれを炳現(へいげん)(あきらかに現れること)させ,その意味するところを生き生きとした経験として体得するのである。…

※「タントリズム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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