改訂新版 世界大百科事典 「ターサ文化」の意味・わかりやすい解説
ターサ文化 (ターサぶんか)
エジプト先王朝時代の文化。中部エジプトのナイル東岸のデイル・ターサDeir Tasa,ムスタジッダ(モスタゲッダともいう)等を主要遺跡とする。バダーリ文化に先行する上エジプト最古の新石器文化として,イギリスの考古学者G.ブラントンが熱心に提唱したものであるが,現在では独立した文化とは考えられておらず,バダーリ文化の初期の段階とする意見が一般的である。口縁部が朝顔形に開き,胴部および口縁内部に白色の練土を詰めた刻文を持つ黒色磨研のビーカー形土器を特徴とする。土器胴部の刻文としては,縦方向の波形を持つものが多い。長方形のパレットや磨製石斧等も使用されていた。この時期の住居址は発見されていないが,人々は長円形の竪穴墓に埋葬されていた。しかし,この文化に関しては不明な点が多く,バダーリ文化の初期の段階であると見なすことさえも危険であるとする意見も強い。
執筆者:近藤 二郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報