日本大百科全書(ニッポニカ) 「ティフォン」の意味・わかりやすい解説
ティフォン
てぃふぉん
Typhon
ギリシア神話の巨大な怪物。ティフォエウスTyphoeusともよばれる。エキドナとの間に怪物ヒドラやキマイラがいる。ゼウスがまさに神々の世界を支配するかにみえたとき、母ガイアはタルタロスと交わってティフォンを生み、ゼウスに挑戦させた。ティフォンはガイアの生んだ怪物のなかでも体格と力量において飛び抜けており、頭から腿(もも)までは人の形をしていたが、背はいかなる山よりも高く、その頭は天空の星に触れ、両手を広げれば東西の果てにまで達し、目からは火を放った。また全身に羽が生え、下半身は巨大な毒蛇がとぐろを巻いた形で、不気味なうなり声を発していた。この怪物が火を噴き出す岩を投げ付けながら天上へと突進してきたとき、神々はエジプトまで逃げて動物に姿を変えたという。雷霆(らいてい)を放って応戦したゼウスは、いったんは痛手を負わせたものの逆に組み伏せられ、手足の腱(けん)を切り取られて岩穴に押し込められる。しかしヘルメスが腱を取り戻したので力を回復し、ふたたび攻撃した。
一方ティフォンは、運命の女神モイライに欺かれて可死の果実を食べてしまう。そのため、トラキアに追い込まれて山を投げ付けようと持ち上げたところをゼウスの雷霆に撃たれ、その山の下敷きとなった。あるいは、シチリアの海を越えて逃走中、ゼウスにエトナ山を頭上に投げ付けられたという。そしてこのときより、エトナ山は火を噴き、溶岩を吐き出しているのだという。英語のタイフーンtyphoonは、ティフォンのおこす暴風と関連があるというが、直接の語源ではない。
[伊藤照夫]