日本大百科全書(ニッポニカ) 「テナール」の意味・わかりやすい解説
テナール
てなーる
Louis Jacques Thenard
(1777―1857)
フランスの化学者。薬学を志してパリに上京し、化学者ボークランの実験室で器具洗いの仕事から始め、彼の引退に際してコレージュ・ド・フランスのポストを引き継ぎ(1804)、ついでパリ大学化学教授となった(1808)。1810年からパリ科学アカデミー会員。初期の研究で有名なのは、コバルトブルー(テナール青)の合成(1804)である。当時フランスで青色絵の具が不足したため、政府から研究を委託され、陶磁器着色用に使われていたコバルト化合物にヒントを得て、合成した。1808年からは、3年間ゲイ・リュサックとともに電気化学、アルカリ金属の研究を行い、金属カリウム使用により、ホウ酸からホウ素を得た。彼の名を不朽にしたのは、過酸化水素の発見(1818)である。これは、金属過酸化物も酸に溶解するかどうかを調べるため、過酸化バリウムに硫酸を注いだことから、得られた。ほかに、エステルや触媒についての研究も知られている。
[吉田 晃]