日本大百科全書(ニッポニカ) 「テリジノサウルス」の意味・わかりやすい解説
テリジノサウルス
てりじのさうるす
therizinosaur
[学] Therizinosaurus cheloniformis
竜盤目獣脚類(亜目)テタヌラ類(下目)コエルロサウルス類Coelurosauriaマニラプトル類Maniraptoraテリジノサウルス上科Therizinosauroideaテリジノサウルス科Therizinosauridaeに属する恐竜。モンゴルの白亜紀後期、約7060万年~6800万年前の地層から産出した。獣脚類としてはきわめて風変わりな恐竜である。全長は不明であるが、前肢の長さだけでも約2.4メートルもある。その前肢のほぼ4分の1を超える70センチメートルにも達する巨大な鉤(かぎ)づめを備えていた。その鉤づめは薄く、緩やかにカーブしており、いわば鎌(かま)の刃のような湾曲を示している。これだけが化石の材料であったので、この前肢をもつ恐竜の姿を想像することは長い間むずかしく謎(なぞ)とされていた。たとえば、巨大獣脚類(全長20メートル以上)とかアリクイのような恐竜、巨大セグノサウルス類segnosauridなどと、さまざまな恐竜が憶測された。ところが1990年代、カナダ・中国調査隊により、中国のアラシャン砂漠からアラシャサウルスAlxasaurusが発掘され、これは小形ながらもテリジノサウルスの前肢と酷似したものをもつことから、テリジノサウルスの正体がわかり、分類学上の位置も推定できるようになった。アラシャサウルスは白亜紀前期、約1億1200万年~9960万年前の地層から産出したもので、テリジノサウルスの直系の先祖ではないかといわれる。こうして復原図が描かれるようになったが、大きさは推定全長が数メートル、二肢歩行で頭はとても小さく、頸(くび)は長いが尾はそれほどでもない。歯が小さく、くちばしの先端には歯がない。腸骨が前方に向かうにつれて横にも広がり、恥骨(ちこつ)は後下方に向くなどとなっている。むろん長い前肢には巨大な鉤づめを備えていた。この鉤づめを保護するため、胴体を起こして重い前肢を腰の重心に近づけて歩いたらしい。獣脚類として異色なのは、草食性の歯があり、胴の長さに比して頭が小さいことで、哺乳(ほにゅう)類でいえばたとえば地上性ナマケモノなどに似る。河川や湖のほとりで、シダ類などの植物の枝を長い前肢でたぐり寄せながら、葉を食べていたのかもしれない。
[小畠郁生]