動物が何を食べているかを食性というが,同一種であっても,地域や季節や,成体と幼体などによって異なっていることが多く,その調査には手間がかかるので,実態が明らかにされている動物はほとんどない。普通にはかなりおおざっぱな類型的区分でまにあわされているし,主食とみなされる食物によって区分されることが多い。〈何を〉という見地からの最もおおざっぱな区分は,動物食carnivorous,植物食herbivorous,雑食omnivorousであろう。この意味での雑食性とは,動物性の食物も植物性の食物もとるということであって,種々雑多な動物(もしくは植物)を食べることではない。これらは,肉食性,草食性,雑食性ともいわれているが,それは哺乳類中心の用語であって,動物全体からすれば適切な用法とはいえない。肉食性という用語は,そこに同時に捕食性とか,つめや歯で切り裂くとか,かみ切るとか(これらは採食習性feeding habitであって食性ではない)のイメージを伴っていることもあって,食性区分にはふさわしくない。また,草食という言葉で植物食を意味させるのにも無理がある。普通はこれに加えて,もう一つ腐食性saprophagous(腐肉食性,死体食性,落葉食性,枯木食性など)という区分も用いられているし,海中では動物植物にかかわらない微小プランクトン食という区分も重要である。
植物食性は,実際には,種子食性,果実食性,葉食性(草の葉食性,木の葉食性),樹液食性,花蜜(かみつ)食性,材食性などさまざまな形をとって見られるし,動物食性のほうも,鳥獣食性(しばしばこれだけが動物食性=肉食性と呼ばれる),魚食性,昆虫食性(食虫性),貝食性,ミミズ食性などさまざまである。植物のあらゆる部分を食べる動物種(またはグループ)も,動物のあらゆるグループを食べる動物種(またはグループ)もいない。だからこそ食性が問題になるのであって,これを動物食と植物食に区分するだけでは(無意味ではないが)あまり役にたたない。しかし,それをさらにどう類型化して区分すれば意味があるのかは難しい問題である。
これとは別に,食べている生物の種類の多少に着目した食性の分け方もある。それは,単食性monophagous(ただ1種の生物しか食べない),狭食性stenophagousまたは少食性oligophagous(少数種の生物を食べる),広食性euryphagousまたは多食性polyphagous(多数種の生物を食べる)という区分であって,動物生態学では重要な概念である。
なお,食性と採食習性,つまり何を食べるかと,どうやって食べるかは,基本的には別の問題だが,しばしば混同されている。たとえば捕食性というのは採食習性であって,鳥獣食動物にも昆虫食動物にも魚食動物にもそのほかにも見られるのだが,捕食性動物という言葉がしばしば猛獣猛禽(もうきん),つまり鳥獣食鳥獣という意味に用いられることが多い。
→草食動物 →肉食動物
執筆者:浦本 昌紀
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
動物が食物を摂取する際の習性をいう。食物の種類とそれを摂取する行動の特徴を表すものであるが、狭い意味では食物の種類のみをさす。食物の種類で食性を類別すると、動物性の食物を食べることを肉食性、植物性の食物を食べることを草食性、動物性と植物性との両方の食物を食べることを雑食性、生物の死体やその分解しかかったもの、または排出物を食べることを腐食性という。アフリカの草原動物では、肉食動物はライオン、草食動物はシマウマ、腐食性の強い動物はハイエナ、そしてやや雑食性の動物はマングース類の一部がその例である。食物の選択範囲の広さで食性を分類すると、特定の種あるいは属の生物を食べることを単食性、単食性も含めて食物の選択範囲の狭いことを狭食性、選択範囲の広いことを広食性という。センザンコウはアリやシロアリを主食とする狭食性で、雑食性のマングースの仲間は広食性でもある。ただし、実際にはこれらの類型分けは典型的な食性にしか当てはめられず、互いの区別は厳密なものではない。
動物はその食性に適した口器、消化器官、骨格、筋肉などの体構造や運動・消化機能をもっている。たとえば草食性の哺乳(ほにゅう)類は歯が臼(うす)状になって草をすりつぶすのに適しており、また腸が長いのが特徴である。ウシなどの反芻(はんすう)を行う有蹄(ゆうてい)類では、大きな分室した胃さえもつ。逆に肉食性の哺乳類は歯が鋭く肉を引き裂くのに適し、また腸は短い。一方、同一種の動物でも季節や場所による環境変化や、発育段階によって食物が異なることも多く、また食性のよく似た他種の動物の存在によって食物の変わることもある。たとえば、スズメは秋にはイネの籾(もみ)をかなり食べるが、春から夏の繁殖期には昆虫を多く食べる。また、アユは川へ遡上(そじょう)する前と、遡上してしばらくは動物プランクトンなどの動物性の食物をとるが、遡上後しばらくするともっぱら石の表面に付着する藻を食べる。
食性の異なる動物は生態系内の異なった位置を占める。光合成によって生産された植物体を食べる草食動物と、その草食動物を食べ、またお互いを食い合う肉食動物がいる。雑食動物もこの関係に加わる。動植物の死体や排出物は腐食動物の作用も受けて植物の栄養源となる形にまで分解する。このように食性の異なる動物は、一定の順序で生態系の物質の流れを構成している。
[高村健二]
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