てんぐ巣病(読み)てんぐすびょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「てんぐ巣病」の意味・わかりやすい解説

てんぐ巣病
てんぐすびょう

多くの植物に発生する病気で、病患部から多くの細い枝が群がり出て、天狗(てんぐ)の巣のような症状を呈するため、てんぐ巣病といわれる。欧米ではwitches' broom(魔女の箒(ほうき))とよばれる。病原種類は植物の種類によってそれぞれ異なっているが、次のように分けることができる。(1)ファイトプラズマ寄生によるもので、サツマイモ、マメ類、ミツバキリなどに発生。主としてヨコバイ類によって媒介される。(2)子嚢(しのう)菌類のタフリナTaphrina属の寄生によるもので、サクラ類、カンバなどに発生。とくにサクラてんぐ巣病(T. wiesneriによる)は発生も多く、よく知られている。タケ類てんぐ巣病は、同様に子嚢菌類の寄生によるが、病原菌の属はまったく異なる。(3)担子菌類サビ菌目の菌の寄生によるもので、モミMelampsorella caryophyllacearumによる)およびアスナロBlastospora betulaeによる)などのてんぐ巣病が代表的なものである。(4)担子菌類餅(もち)病菌の寄生によるものでは、ツツジてんぐ巣病(Exobasidium pentasporiumによる)がある。

 防除法は病原の種類によって異なり、ファイトプラズマによるものは、殺虫剤を散布して媒介虫を殺す。サクラなど糸状菌の寄生によるものは、病枝をそのすぐ下にあるこぶとともに切り落としてTPN剤などの殺菌剤を散布する。

[梶原敏宏]

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改訂新版 世界大百科事典 「てんぐ巣病」の意味・わかりやすい解説

てんぐ巣病 (てんぐすびょう)
witches' broom
Hexenbesen[ドイツ]

小枝や葉が異常に密生する植物の病気をいう。樹木の高い枝に出ると鳥の巣またはヤドリギに似た外観となり,ドイツ語などでは〈魔女のほうき〉と呼ばれる。サクラてんぐ巣病は子囊菌類の1種Taphrinaの寄生によって起こり,発病の多いソメイヨシノでは〈天狗巣ははやくも青い葉を出し〉(宮沢賢治)と歌われたように,開花期に病枝だけ葉を密生するのでよく目だつ。モミ類やアスナロのてんぐ巣病は銹病菌(担子菌)によって起こる。菌類によるてんぐ巣病は病枝に形成する胞子の飛散で伝染し,組織中の菌糸で越年するので病枝は根元から取り除かねばならない。キリてんぐ巣病などマイコプラズマ様微生物による病気の多くはてんぐ巣状となるが,これらはヨコバイやカメムシの吸汁で伝染する全身病である。そのほかフシダニの寄生や生理的異常によっても類似の症状が起こる。
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世界大百科事典(旧版)内のてんぐ巣病の言及

【銹病】より

…前述のように,銹病は葉のさび様の胞子塊が特徴であるが,中には変わった病状を伴うものがある。マツのこぶ病では幹が丸くふくれ,アオモリトドマツのてんぐ巣病では細い枝が密生する。銹病防除には一般に硫黄剤が有効であるが,中間寄主の撲滅も重要な課題で,ナシ園周囲約1kmのビャクシン類栽植を規制する条例をつくっている市がある。…

※「てんぐ巣病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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